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三人の生活

 外を見れば、相変わらずの銀世界。

 そんな日々も既に二ヶ月が過ぎようとしていた。


 ムルクも今の状況ではまだ王都に戻れそうにもないと、セレストたちの家に留まっている。

 その間も戻る時期について王都と頻繁にやり取りをしていたのだが、ついにこの日、ひとつの結論が出された。


「団長が、春を待ってから王都に戻るようにだとさ。セレストとヒューティリアは次の春も王都にくるんだろ? それに同行しながら戻ればいいって」


 ムルクが「次の春()」と言ったように、セレストとヒューティリアは昨年の春にも王都に出ていた。

 ただ、一年目の春とは異なり、滞在期間は五日程度だったが。


 その五日間もムルクやワースに知らせることなく過ごしてさっさと帰るつもりでいた。

 しかし王都に入る際にどうしても門番に通行証を見せなければならないため、セレストたちが王都入りしたことはすぐにワースの耳に入ったようだ。

 その後ワースがムルクに伝え、ムルクがセレストたちを見つけて自宅へと招いた。

 ムルク曰く、団長命令だから、と。


 王国魔法師団団長のワースは、何かとセレストを気に掛けている。

 そのことにはセレスト本人も、巻き込まれているムルクも気付いていた。ムルクはその理由の一端を本人の口から聞いたことがあるが、本人から何も聞いていないセレストにも心当たりがある。

 ワースは、マールエルの友人なのだ。


 ワースとマールエルは共に師を持つ魔法使いであり、同年代、更には同等の実力を持っていたため、競い合うのにちょうどいいライバルだったとマールエルが言っていた。

 それに数える程度だが、セレストも幼少期にワースと会ったことがある。


 そういった経緯から、ワースがセレストを魔法師団に引き入れたのも、何かと気に掛けているのも、自分がマールエルの弟子だからだろうと考えている。

 独り立ちした友人の弟子を気に掛けて、世話を焼こうとしているのだろうと。


 だからこそ、セレストはワースに知られることなく王都を去るつもりでいた。

 過保護なのだ。

 師匠も、師匠の友人も。


 結局ワースに見つかり、ムルクの世話にならざるを得なかった苦い記憶からもうすぐ一年。

 もうそんなに経ったのかと、セレストは内心で驚いていた。同時に、ムルクが同行するという話には隠すことなく面倒くさそうな表情を浮かべた。


「あ、面倒くさいって思ってるだろ」


 すぐにムルクからの指摘が入る。

 否定するつもりがないので沈黙で肯定の意を表していると、ヒューティリアが嬉しそうな声を上げた。


「今年はムルクも一緒なのね! 楽しみ!」


 手を叩いて喜ぶヒューティリアに、セレストは眉間に皺を寄せながらも諦め混じりのため息を吐き出す。

 そんなふたりの様子に、ムルクは苦笑した。


「ほんっと、面白い師弟だよ。お前たちは」


 どこかちぐはぐなのに、何故かうまく噛み合っている。

 一体どういう仕組みなんだとも思うが、これがこのふたりの関係性なのだとも、ムルクは理解していた。


「それにしても」


 まじまじとヒューティリアがムルクを見る。

 不躾なまでの視線にムルクは首を傾げた。


「何だ?」

「んーん。ただ、何だかムルクがいる生活が不思議な感じがして」


 ムルクがこの家に来て既に二ヶ月。

 最初は客人として迎え、滞在が伸びるにつれてその存在に慣れてきたつもりではいたが、ふとした瞬間にムルクがいる景色が不思議な光景に見えてしまうことがあった。

 その気持ちを隠すことなく直球で言葉にしたヒューティリアに対して、ムルクは苦笑を向けながら頷く。


「俺もそう思う」


 そう告げたムルクは、意味ありげな視線をセレストに向けた。その視線の意図が読めずに、今度はセレストが首を傾げる。


「何が言いたい」

「いんや。ただ、この家では俺が異分子だっていう自覚があるって話だ」


『確かに!』

『異分子ね。なるほど、しっくりくるね』

『ムルクは鋭いね』

『いいとこ突いてる!』


 益々怪訝そうな表情を浮かべるセレストとは裏腹に、精霊や妖精たちはムルクが言わんとするところを理解して口々に同意し、絶賛する。


「まぁなー。何て言うんだろうな。この家には何か意志のようなものがあるんじゃないか? そいつに俺はあまり歓迎されていない」


『へぇ〜』

『ほぉ〜』

『素直に賞賛したいところだけど、あまりはっきり言われるとねぇ』


 もごもごと精霊や妖精たちが言葉を濁し始める。

 その様子から、ムルクは言ってはいけないことを口にしたのだと察した。


「ま、そう感じたってだけの話だけどな」


 最後は曖昧に締め括って、話を切り替えるべく両手を一度打ち付けた。

 パンッと乾いた音がして、セレストもヒューティリアも思わずムルクに注目する。


「そういうわけだから、王都に行くときは俺も同行させてくれよな! 荷物持ちでも何でもするからさ」

「……何でもしてくれるの?」


 何でもする、と聞くなりヒューティリアが真剣な表情でムルクに詰め寄った。


「お、おう」


 気圧されてやや後ずさりながらムルクが頷くと、ヒューティリアは「なら」と言葉を続けた。


「留守を任せるのに精霊や妖精たちに魔力をたくさん渡していかなきゃいけないんだけど、ムルクも協力してくれる?」

「は?」


 言われたことが理解できず、ムルクは間抜けな声を上げる。


「だってね、去年も一昨年も、セレストがひとりで精霊や妖精たちに魔力を渡してたんだけど、丸一日動けなくなるくらいたくさん魔力を持って行かれちゃうの。出発が遅れるのはいいんだけど、毎回あんなに魔力を持って行かれてたらセレストが大変でしょ?」


 あたしも今年こそは力になろうと思ってたの! と、ヒューティリアは拳を握り込みながら更にムルクとの距離を詰める。


「今年はムルクもいるんだもん、三人で魔力を提供すれば、セレストの負担もかなり減ると思うの」

「あ、あぁ、なるほどな。わかったわかった。協力するよ」


 有無を言わさぬ気迫に負けて、ムルクは頷いた。

 するとヒューティリアは満足そうに笑ってムルクから離れる。


「よかった。ありがとう、ムルク」

「まぁ、構わないさ。どうせ魔力を渡した日は休むんだろう?」


 と、ムルクがセレストに問いかけると、セレストはヒューティリアに向けていた呆れたような視線をムルクへと移す。


「そのつもりだ」

「なら、問題ない」


 請け合うムルクに、セレストは複雑な表情を浮かべた。

 そして、小さく呟く。


「全く……どいつもこいつも、過保護だな」


 そんなに俺は頼りないのかとぼやくセレストの言葉を聞き咎めたムルクは、一瞬虚をつかれたような顔になってから豪快に笑い出した。

 聞こえていなかったヒューティリアは何故ムルクが笑い出したのかわからずに、不思議そうにセレストとムルクを交互に見ていた。

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