6. 戸惑う1日
20日、土曜日。大町は文丸らとの待ち合わせ場所に向かっていた。
家を出て数百メートルの所で車が飛び出した。
(危なっ!! ……あれは!)
その車は一昨日撮った不審者の物と同じだった。
(そっちはあのマンションの方だぞ、まさか!)
大町は車が向かった方へと走った。追い付くと、楽司達が閉じ込められているマンションの前に先程の車が停まっていた。
物陰に隠れ、スマートフォンを構える。5分くらい経つと不審な女が手ぶらで車に戻り、こちらに気付く事なくこの場を後にした。
「これでよし」
「やるじゃん、転校生」
「ひゃっ!! あー……北目さん」
北目が後ろに立っていた。
「今撮ったの、最初っから見せてー」
「えっ? あ、うん。いいよ」
確認がてら動画を再生すると、女の顔がはっきりと映っていた。やはり先日の不審者だ。
「えっ? この人……やばっ! みんなにも言わなきゃ!!」
「知ってるの!? 待ってってば」
北目は足早にその場を去った。大町も文丸達の元へ急いだ。
「ここ来る前にさ――」
大町は友人らに先程の事を説明した。撮った物も全員に一通り見せた。
「それってさぁ、サス好の奴はあのおばさん知ってたって事だよね? 何で?」
「さぁ……」
北目が何も言わなかった以上、朝葉に答えてやれなかった。その時、マンションの事を教えてくれた同級生からメッセージが届いた。
『例のマンション、警察来てる!!』
大町らはマンションへと急行した。
現場では警察が犯行に使われた部屋を調べていたが、もぬけの殻だったそうだ。事情を聞かれていた主婦らしき女性は、マンションに立ち入る不審な男女と彼らのワゴン車を見かけたので通報したが、電話を切った時には既に引き揚げていたと証言していた。
現場を後にした所で咲苗がSNS内で検索すると、ワゴン車の目撃情報が数件見つかった。いずれも青葉区内で、スピード違反やむやみな追い越し、煽りなど危険な運転をしていたという内容だった。
「必死に逃げてる、って感じだよねぇ……奏ちゃん達乗ってるかもなのに、事故起こさなきゃ良いけど」
「そうだよ! 事故って奏と、野郎4人に何かあったら……うち、たぶん犯人ぶっ飛ばすわ」
夏椰は見るからに、怒気に充ちていた。
「咲苗はうちらと一緒に来て。あいつが出たとこ、出そうなとこ、徹底的に探すよっ!!」
「うん!」
咲苗と夏椰、笹上が先に出発した。
大町と文丸、朝葉はワゴン車の出没地点の間を慎重にたどった。他の仲間達もその周辺をくまなく調べ回っているようだ。
『奏達んとこ特定した!!』
夕方、夏椰から全員宛にメッセージが届いた。添付された地図は青葉区西部、悪魔の家から数キロ離れた所を示していた。
『空き家なんだけど、表札気になったから撮った』
表札の画像を送られた。一見よくある木で作られたシンプルな物だが〝祖志継〟という、大町にとってはこれまでに聞いた事のない姓が書かれていた。
「祖志継!?」
途中で合流し居合わせていた天馬と椿が目つきを変えた。
「3人共、今すぐ帰って! 万路の奴も全員……ここからは俺達で何とかするから」
「えっ、でも錦ヶ丘君達が」
「文丸、同じ事言わせるな! 俺達が何とかするっつったろ!?」
天馬が怒鳴った。
「お願い、大丈夫だから行って!」
「そうだ! それから、手遅れかもしれないけど……椿さんも。元1以外は一旦帰ってくれ」
「えっ……」
天馬は戸惑う椿を大町らに託した。
「そこまで言われちゃしょうがないよ……僕達は帰ろう?」
大町と文丸、朝葉、椿は天馬を残し各自帰宅した。
夜。大町は笹上から近くの公園に呼び出された。
「待たせたかな?」
「いや、俺もさっき着いたばっか……大町。文丸から聞いてるけど、福島の同級生にこっちで何が起きてるか教えなきゃいけないんだろ?」
「うん」
「それさ、今は止めててくれねぇか? 下手すると、その同級生も巻き込んじまうかもしれねぇんだ」
笹上の言葉と、天馬のあの様子が重なる。事の大きさは想像以上で、返す言葉が出て来ない。
「なぁに、忙しくて連絡出来なかったって事にすりゃ問題ないだろ。この学年だ、受験とかのせいにしときゃ良い」
「……そう、だね。分かった、そうするよ」
そういう事なら宮町と綺那も分かってくれるはず、と自分に言い聞かせつつ、大町は笹上に従った。
「それと、もし……」
「もし?」
「俺に何かあったら、夏椰の事頼む」
「えっ? う、うん……けど、何もない事を祈っとくよ」
あまりにも真摯かつ切実な言葉に応えはしたものの、荷が重く、二人のためにも無事を願わずには居られなかった。
(祖志継って聞いてからずっとこうだ。一体、何なんだ……北目さんのあの様子も)
【宮城県祀陵高校】
鷺ヶ森夏椰
2年1組→3年5組
2days+のマネージャー的存在、笹上の彼女
笹上麦人
2年1組→3年6組・空手道部
夏椰一筋で、仲間も大事にする