5. 不思議なマンションと女の子
19日、宮城万路高校では昨日の不審者が話題になっていた。
「硬野の奴も帰り遭ったって! 無視してチャリで逃げようとしたら、フラッシュ焚いて撮られたらしいよー」
「怖っ!!」
(容赦ないな……)
大町は怒りを通り越して呆れていた。
「そうだ、話変わるけど知ってる? 変な家あんだって!」
「最近流行ってるとこでしょ? 山の方の……悪魔の家!」
「そうじゃないそうじゃない! 街中のボロマンション!」
「何それ気になる!?」
大町は級友らの会話に混ざり込んだ。
ヤンキー風の女子生徒曰く、去年中に住民全員が立ち退いた仙台市内の古いマンションで時折、助けを呼ぶ女の声が聞こえるらしい。近所なら誰もが知っている事故物件で発生している事から、心霊現象であると推測されているそうだ。
「大町も家あの辺でしょ? よーく聞いてみ?」
「うん、そうするよ。ありがとう」
放課後、大町はさっそくそのマンションを尋ねた。ある1室の前で先客を見つけた。
「咲苗さん?」
「そうだよ! 万路でもここの事言ってた?」
「うん。祀陵も?」
「そう! この辺住んでる子結構居てね、その……女の人の声が、奏ちゃんっぽいって」
「えっ!?」
その時、部屋の中で物音がした。
「何!?」
大町と咲苗はドアを睨んだ。
「咲苗ちゃん?」
「奏ちゃん! そうだよ、咲苗だよ!」
中に居るのは奏で間違いないようだ。
「他のみんなは?」
「全員居るよ! 今の所大丈夫!」
「良かった……待ってて、今警察呼ぶから」
咲苗がカバンからスマートフォンを取り出した瞬間、人の気配を感じた。
「待って、誰か来る」
大町と咲苗は階段の影に隠れた。誰かが問題の部屋の前で足を止めた。
「大丈夫。私は悪い人じゃないよ」
のぞき見ると、高校生くらいの女の子が奏らに優しく語り掛けていた。
「この前は助けられなくてごめんね……無事そうで良かった。今度こそ、絶対助けるかんね?」
「うん……誰か分からないけど、約束だよ!」
「うん!」
話し終えた女の子はこちらに上がって来た。
「……あ、転校生。それに、祀陵の子も」
「誰!?」
「北目瑛夢。クラス遠いし、私服だから分かんなかったでしょ?」
「う、うん……」
「とりあえず外出るよ。そろそろ犯人が晩ご飯持って来るかもしれない」
大町と咲苗は北目に連れられ、近くの公園に移動した。
「二人共、あのマンションの事、誰に聞いた?」
「僕はクラスの子から」
「うちも、あの辺住んでる子から」
「そう……朝葉とか、あの辺には言わないでね」
「え?」
大町は北目の言葉に疑問を抱いた。
「何で? あそこ、朝葉さんの友達とか居るのに……」
「いいから。とにかく、絶対内緒だかんね!?」
北目は大町に忠告すると、ちょうど来たバスに乗って仙台駅方面へと去った。
大町は即座に朝葉へ電話した。マンションに行方不明者全員が居て無事である事、北目の事を全て伝えた。
「北目が!? マジか……大町。あいつの、サスペンス愛好会の言う事は気にすんな? 宮万1の奇人の集まりだから、ほっときなね? 咲苗にも言っといて」
「わ、分かった」
大町は電話を切った。咲苗と今の事を話し、駅まで送ってから自宅に戻った。
(サスペンス愛好会ねぇ……確かに訳分かんないな)
【学校法人南奥羽万路学院宮城万路高校】
北目瑛夢
特別進学コース3年1組
非公認のサスペンス愛好会を率いている
【宮城県祀陵高校】
梅田咲苗
2年1組→3年1組・サッカー部
敏感で洞察力が高い