4. 不審者
大町と文丸、朝葉、星陵はヌカボシの前で天馬、椿と待ち合わせた。
「お疲れ。悪魔の家、どうだった?」
「ただの空き家だった」
星陵が報告し、店のドアを開けた。席に着いてすぐ飲み物を注文すると、大町は天馬と椿に写真を見せた。
「普通の空き家だな」
「普通のお家だね」
二人の感想が一致した。
「けど、前は変わり者のおじいさんが住んでたらしいんだ」
「そうだったんだ」
大町の説明に天馬が相槌を打った。そこに、頼んだ物がまとめて運ばれて来た。
大町はジュースを飲みながら、紅茶を嗜む天馬と椿をひと目見た。同じ高校3年生には見えない、遥かに格上の御曹司とお嬢様、あるいは王子様とお姫様のようだ。
(本当、お似合いだな)
格下と分かっている故か、チープな褒め言葉しか出て来ない。
「大町、俺の顔に何か付いてた?」
「や、何も」
「なら良いんだ……じゃ、俺達が聞いた事話すよ」
天馬が語り始めた。
大町らが悪魔の家に行っている頃、彼は椿と一緒に仙台市郊外で手掛かりを探し回り、道中で知人から高校生を狙う不審者の情報を得た。
「学校と学年を聞いて、携帯で制服姿を撮る女の人だって……で、椿さんの家でネット見て調べたら、楽司達が居なくなる前と、ここ2、3日、相次いでやってるって」
「最近だと祀陵生によく絡んでて、3年生だと友達の事も聞かれるみたいだよ。学校では聞いてないけど、実際遭った子居たみたい」
「その絡み方、かなり怪しいな」
文丸が囁いた。
「その人、まだ捕まってない?」
「あぁ」
「気を付けないとな……一応、僕ら万路生も」
「そうした方良いよ」
文丸と天馬の会話に、大町も同意した。
辺りが薄暗くなったので帰る事にした。途中まで一緒になるよう、みんなで人通りの多い道を歩いた。
「野暮な事聞くけどさ、天馬君は椿さん送って帰るの?」
「当然だろ」
自然な口調で返した天馬の手は、椿の手をしっかりと握っていた。
「さすがだなぁ……僕にはまだ分かんないや」
「近々分かるぜ。文丸から聞いてるけど、クラスで結構モテてるんだろ?」
「何聞いちゃってんのさ」
大町が苦笑していると、彼らの真横で車が停まった。窓が空き、運転席の女が携帯電話を片手にこちらを見た。
「祀陵生と……そちらの坊や達はどちらの学校かしら?」
天馬がみんなをかばうように前に立った。
「言わなくて良いよ……二人共、教えたくないって言ってます」
「何よそれ、何で貴方がそれを言う? 貴方、祀陵の3年生? だとしたら、生意気でも仕方ないわね。貴方達はみんなそうだから」
「祀陵の3年生が何だって?」
「はっ、あらやだ。カッとなって言い過ぎちゃったわ、おほほ……」
我に帰った様子の女は、上品ぶった笑いでごまかしていた。
「な、何でもないわぁ。さよならー」
女はふらふらと、後続車にクラクションを鳴らされながら逃走した。彼女がもたもたしている間に大町は車のナンバープレートをスマートフォンのカメラに納めていた。
「俺らの事分かったように言ってたよな……あの人、絶対怪しいぞ」
「だね」
大町は天馬に同調した。途中でみんなと別れ自宅に着くとすぐ、SNSを開いた。
(僕達みたいに、誰かも学校聞かれるかもしれないしな)
既に数件公表されているので不審者に関しては書いても問題ない、むしろ知らせるべきだと考えていた。
『拡散希望! 高校生に声を掛け、学校名・学年を聞いて写真を撮る不審者が出歩いています。同一犯で何件もやってるので気をつけて下さい。特徴は――』
アップしてすぐ、同じクラスの子達が広めてくれた。夕食などを済ませた頃に返事をくれた子もいて、やり取りしている間に夜が更けて行った。
【宮城県祀陵高校】
支倉天馬/てん君
2年1組→3年3組・サッカー部
イケメンで性格も良い、椿の彼氏
五橋椿/つば嬢
2年4組→3年5組・調理部
育ちの良いお嬢様、天馬の彼女