47.最後の夏 理由
大町とその仲間達が魅阿と対面した頃、大崎尚進高校では、下川原率いる尚進探偵団のメンバーが魅阿の父――唯郎と睨み合っていた。
「連絡した所で警察は来ないのに、どうする気かね?」
唯郎が先頭に立つ下川原に問う。彼女は矢遣団に彼の件を報告した所だった。
降りしきる雨の中、パトロールカーの音が学校から遠ざかる。野次馬の生徒や近隣住民曰く、不良少年が街中暴れ回っていて、警察はそちらを先に片付けようとしているらしい。
「さぁね。そっちこそ、ここに来てどうするつもりだったんだか……おっさん達が会いたがってる子、ここに居ないの知ってんでしょ?」
下川原が質問を返した。
探偵団の後ろに控える体育教師達が、刺激するな、下がってなさいなどと呼び掛けるが彼女らは動かなかった。
「連帯責任だの何だの言ってたよね? どういう事か聞いてやっから……だから、先生、もうちょい待ってて下さい」
下川原の言葉に教師達が戸惑う中、唯郎はゆっくりと口を開いた。
その頃、城山と下山は大崎尚進高校へ向かっていた。傘は持っているが、走りにくくなるからと差しておらず、二人はびしょ濡れだった。
同学年の女子が向こうから自転車を飛ばしてきて、二人の前で停まった。
「学校行くんでしょ? 警察呼んで来るから、それまでよろしく!」
「警察呼んで来るって?」
「その話は後で、んじゃ!」
女子は学校と反対方向へ走り去った。
正門の前まで来ると、私服姿の丸沼と瀬里が野次馬に紛れていた。
「ごめん! 待ち合わせてたのに」
「しょうがねぇよ。俺らは入れねぇから、中は頼んだ」
「了解!」
城山は丸沼と一言交わした。本来なら10時に古川駅で待ち合わせ、何かが起きるまで一緒に勉強するはずだったのだ。
「君達も仲間かね?」
「あぁ、そうだ」
唯郎に答える城山の目付きは鋭くなっていた。
「しろっち! そいつ、おかしいよ!」
下川原は城山に呼び掛けた。
「おかしいだなんて、失礼だな。本当の事を言っただけなのに……知らない子が来たから、もう一度話そう」
唯郎が語り始めると、下川原達は彼を咎めるような視線を投げた。城山と下山も厳しい眼差しを向けた。
「君達の過ちは、我々の計画を破綻させた事さ」
唯郎は昨年の祀陵、大崎尚進高校生の行いによって、祖志継家が企てたある計画を実行出来なくなったと主張した。
理由は教わっていないそうだが、それはみかんと澄那の協力を要する物らしく、冬美が原因となったドクツルタケ混入事件で澄那が逮捕され、迎え入れる事が出来なくなり、その責は二人に干渉した下川原らにもあると彼は考えていたようだ。
「いい加減にしろ! 友達が悪い事をしたからそれを止める、なかなか出来ないけれど立派な事じゃないか! 正義面しておいて、何を言うんだ!」
体育教師の中でも普段はおっとりしている、柔道部の顧問だった。
「我々の正義は、君達とは違うんだ」
唯郎はポケットから小刀を取り出し構えた。
「来るよ……みんな、あたしから離れて」
下川原の予想通り、唯郎は彼女に飛び掛かった。彼女がかわし、足でつまづかせると、彼は泥の中に倒れた。そこで教師達が取り囲んだ。
「それじゃあ、やりすぎだよー」
正門の方から女の子らしき声が聞こえた。
【宮城県大崎尚進高校】
下山恋音
総合学科創造芸術系列2年3組→3年3組
美術部
自分を〝僕〟と呼ぶ女の子。城山と付き合っていて、彼のため尚進探偵団に参加した