30. 現場から 捜索
南境らは引き続き、蒼子と洋乃から事情を聞いていた。
「手を打たれていた、って……どんな風に?」
「綾海さんとあたし達だけが見れるノートがあって――」
蒼子によれば、2年生事件の計画を書き込んだノートが存在し、そこに蒼子らが裏切った時の対処法についても記されていたそうだ。そのノートはある事自体隠されており、未だに押収されていないはず、との事だった。
「それがある限り蒼子達は逃げられないんだろ?」
「うん」
「じゃあ、それを探して……あの事書いてあるんなら、良い証拠になるかもしれねぇし、警察に持ってこう」
南境は帰ろうとしていた友人達にも声を掛け、ノートを探す事にした。
「それで、今まではどこに隠していたんだ?」
「使う度に変えてたけど……市内の、土とか海の中にケースごと入れてた」
「町中探せばどっかにはあるんだな、分かった。俺達に任せて蒼子達も隠れてた方いいぞ、綾海ママもうろちょろしてるかもしれねぇし」
「分かった!」
蒼子と洋乃は、南境から任されたのあとエレナ、伊原津と一緒にその場から退こうとした。
「二人共、相野谷達と行ってやって」
「えっ」
「分かった!」
伊原津の頼みで竹浜と須江が南境や相野谷に同行した。他の仲間達も自分や友人の住む各地区へと散った。
南境、相野谷、海椰、青山と、須江と竹浜は陸前稲井駅で列車を降りた。
「6人でまとまって探すより、手分けした方いいんじゃない?」
「だな」
竹浜の提案に南境も同意し、二人ずつ――南境と海椰、相野谷と青山、須江と竹浜の3手に分かれた。
「何かあったらメッセージ送るから!」
竹浜は須江を連れて駅前から去った。
「俺らも行くか。野郎二人、そっちも頼んだぞ」
「うん」
残り二組も地元での捜索を開始した。
石巻市西部の港湾地帯には屋下と双葉、灯華、流留、史衣那と彼女らの友人が所々に居た。
「あれまぁ、和渕さんとこの!」
「その制服……浦見台だったんだな、大変だなやぁ」
史衣那は顔見知りの中年夫婦に声を掛けられ、透かさず事情を説明した。
「俺達は変な物も人も見てねぇなぁ。けど、いっつも来てる兄ちゃん達が昨日何か言ってた」
「あの子達、今日も居るはずだよ」
「そうですか、ありがとうございます! さっそく行ってみます」
「気を付けてなぁー」
史衣那、連れ添っていた明神と磨麗佳、未衣亜、芽李は夫婦に見送られ、ある防波堤に向かった。
「シーナ、あの人達じゃね?」
芽李は防波堤灯台が建っている辺りから海中を覗き込む青年達を指差した。
「っぽいよねー」
「俺、ちょっと聞いて来るわ」
明神は青年らに駆け寄った。
「すいませーん」
「んー?」
「そこ、何かあるんすかー?」
「あぁ、あるよ! ほら」
青年が指で示した水面下にはケースのような物があり、紐で引き揚げられるようになっていた。
「昨日一人で来てたどっかのおばさんが置いてったんだ」
「あのおばさん、超怪しかったよな……今、居ねえよな?」
青年の仲間と明神は辺りを見回したが、挙動不審な女は見当たらなかった。
「大丈夫っすね」
明神は青年らにノートの事を話し、ケースを吊り上げた。その様子を見て、史衣那達も防波堤に足を踏み入れた。
ケースを開けると、ビニールで何重にも覆われた鍵付きの日記帳が入っていた。鍵は穴に刺さったままだった。
「これは……間違いねぇ! みんなに教えるんだ」
明神は日記帳の内容を確かめると、史衣那から他の仲間にメッセージを送らせた。
『見つかったよ! 場所は――』
史衣那のメッセージを読んだ竹浜と須江は通りがかったタクシーを止め、防波堤を訪れた。
「竹浜! 彼氏は一緒じゃないのー?」
「彼氏って相野谷の事ー? 違うよー?」
未衣亜にいじられつつ、竹浜と須江、他の生徒や青年達もノートを一通り読んだ。
そこには2年生事件の進め方に加え、蒼子と洋乃が裏切り、逃げた時のために二人の特徴や連絡先が書き込まれていた。
「昨日置いてったって事は、これ見てるよね」
「えぇ、見たわ」
竹浜が振り向くと、初めて見る顔の女が立っていた。
「返しなさい」
「嫌だね! これ以上何もさせたくないから、こいつは返さないよ!」
竹浜は胸にノートをしっかりと抱え込み、女とにらみ合った。