1. 朝葉さんとの出会い
「福島万路高校から来た、大町理夢です。よろしくお願いします!」
大町が自己紹介をすると、教室中から拍手が沸き起こった。
担任に指定された席は窓側の最後尾で、その周囲は女子生徒で固められていた。
「よろしくね!」
「よろしくー」
着席してすぐ女の子達の歓迎を受けた。こうして、大町の新たな学校生活が幕を開けた。
編入後初の授業は美術だった。教室まではお節介な女子に案内され、みんなに覚えてもらう名目でデッサンのモデルにされた。
クラスへ戻る途中。視線を感じ振り向くと、肩より少し下までの栗毛を下ろし赤い眼鏡をかけた生徒がこちらを見ていた。
(あの子、何なんだろ?)
大町は彼女を不審がった。
2校時以降は座学だった。大町は景色が良い事に気付いた。クラス中に目が行き届くし、窓からは愛宕上杉通の様子を眺められるのだ。
「初っ端がら窓側で嬉しいのは分がっげど、黒板見でくんねーがぁ?」
「はっ! す、すいません」
大町は訛りが強い国語教諭に注意された。
昼休み、フレンドリーな男子数人から誘われて学生食堂に同行した。
「大町、ラーメン好きなの?」
「うん! めっちゃ好き」
「マジ!? よっしゃ、俺達合うんじゃね?」
「だね!」
大町らは注文したラーメンが揃うと夢中になって食べ、あっという間に平らげた。
3年6組に戻ると近い席の女子達が騒いでいた。
「君達何事!?」
「7組の朝葉ちゃんが大町君探しに来たの。でね、居ないって言ったら、放課後来てだって」
「福万の友達に紹介されたって言ってたの。コクる気なんだよぉ」
「やだぁ」
「……大町、お前相当モテてんな」
事情を聞いた男子は茫然としていた。
「で、どうすんの?」
「どうすんの? って……そもそも、朝葉ちゃんって誰」
「美術の時居たじゃない! 赤縁眼鏡の子」
お節介な子に言われ、大町は何度か見かけた謎の女子生徒を思い出した。
「あの子か! ……で、放課後どこで会えるの?」
「昇降口だって」
「ありがと、行くだけ行ってみる」
女子がやめてだの、行くならフッて来いだの喚いた。
午後の授業も無事終了し、伝言通り昇降口へ行くと朝葉が待っていた。
「大町、転校早々悪いね……あたしは千代田朝葉。改めてよろしく」
「こちらこそ……僕の事、宮町君から聞いたんだって?」
「うん。それで……他んとこで話さね? それと、まだそんなに仙台の事も分かんないっしょ?」
「あ、うん。通学路以外全然だよ」
大町が答えると、朝葉は彼を街中連れ回した。
その道中、彼女は周りの様子をかなり気にしていた。同じ学校の生徒をひたすら避け、黒地に襟縁が濃紺のブレザーを着た他校生を見かけると気遣うような言葉を掛けていた。
「朝葉さんって他校の友達多いんだね」
「まぁねー。他校っつっても、宮町以外ほとんど祀陵だけど。地元の友達結構行ってるし」
「祀陵……あ、どっかで聞いた気がする」
「あそこ、全国的に有名だからねー」
二人で喋っていると広瀬川河畔に着いた。
「ここなら大丈夫っしょ……んじゃ、本題に入りますか」
朝葉が切り出した。
「宮万で……っていうか、あたし達の周りで起きてる事なんだけど」
「うん」
「居なくなった人がいてさ、それを皆で探してんだ」
「居なくなった人?」
大町が聞き返した時、朝葉のスマートフォンが鳴った。
「ん? ……あ、ごめ。別の用事入った。とりあえず、探すの手伝ってくれるっしょ?」
「えっ? も、もちろん」
「じゃ、また明日話すわ。みんなには内緒ね。そういう訳で今日は解散しやしょ」
朝葉はそそくさと立ち去った。大町もそこからまっすぐ帰宅した。
翌朝、大町はクラスメイトから朝葉の事を問い詰められていた。
「やっぱりコクられたの?」
「いや? 友達になっただけ」
「でも、大町君ってああいう子がタイプだったりする?」
「えっ? ごめん、僕そういうの分かんないんだ」
「だったら良いじゃん! 質問終了ー」
この後話が蒸し返される事はなく、1日が早々と終わった。
放課後、大町が下駄箱を開けると扉の内側に付箋が貼られていた。
(朝葉さんっぽいな。『ヌカボシ集合』か……よし)
大町は昨日教わっていたカフェ・ヌカボシへ向かった。宮城万路高校生が朝葉を入れて6人、〝祀陵〟の生徒が複数人、店内奥のミニステージ近くに集まっていた。
「朝葉さん、これって……?」
「例のあれやってるメンバーだよ。祀陵の子が5人居なくなって、その同級生と、地元一緒のあたし達で探してんだ」
(5人も!? これは……かなりの大事だ)
朝葉の説明に、大町は動揺した。
【学校法人南奥羽万路学院宮城万路高校】
千代田朝葉
実践教養コース3年7組・被服部
宮町が惚れてる、唯一の他校の友達