0. 僕、転校します
2013年4月12日金曜日、私立福島万路高校では近くを流れる荒川のように穏やかな時間が過ぎてゆく。
そのごく普通な光景が今日で見納めだという男子生徒――大町が居た。彼は父親の都合で急きょ、隣の宮城県へ引っ越す事になったのだ。
ここでは最後の授業が終わった後、大町は同級生と別れのあいさつを交わしていた。
「大町君、たまには遊びに来なよ? うちらも仙台行くかんね!」
「はいっ、うちらからの餞別っ!」
おしゃれな女子生徒が大町にプレゼントを渡した。
「それにしても、女装の名人がいなくなっちまうなんて……福万祭詰んだなー」
「それなー」
クラスのまとめ役がぼやいている。
級友らはあどけなく中性的な外見に加え、明朗で人のいい大町を親しみ時には頼っていた。その一方、同じ学年には彼をコケにする者も存在した。今ちょうど教室に上がり込んだ綺那と宮町がまさにそれだ。
「うわっ、変なの来た!」
「帰れー」
綺那と宮町の悪評を知っているクラスメイトが野次を飛ばした。
「大町! 今までごめん!!」
綺那と宮町が一緒に頭を下げると、教室が静まり返った。
「散々言っといて何だが、お前にしか頼めない事が出来たんだ」
「僕にしか頼めない事?」
「あぁ……お前、確か宮万行くんだろ?」
「そうだよ」
「最近あっちで変な事あったらしくてな、この前知り合った子に聞いてもいまいち掴めないんだ……図々しいのは分かってる。それでも、それを、お前に探ってもらいたい」
「私からもお願いします」
宮町に続き、綺那が丁寧な口調で乞うた。
「黙って聞いてたけど、そんなのただのパシリじゃん! 大町君、こんなのほっときなよ!」
「そうだぞー」
周りで聞いていた生徒達が再び非難の声を上げる中、大町はゆっくり頷いた。
「いいよ」
「えーっ!!」
「しょ、正気か?」
大町の返事にみんなが錯愕した。
「うん。今までの事謝ってくれたし……それに、宮万で何があったか気になるし」
「大町君優しー!! あんた達、感謝しなさいよー?」
「あぁ……ありがとう」
「ありがとね」
女子生徒に促され、宮町と綺那はお礼を言った。
大町は二人と連絡先を交換し、友人達に見送られて学校を後にした。
週末に新居へ移り、月曜日。大町は宮万こと宮城万路高校の前に立った。
(ここで何があったんだろ。ワクワク……っていうか、ゾクゾクするな)
大町は新天地に足を踏み入れた。
【学校法人南奥羽万路学院福島万路高校】
大町理夢
総合コース3年5組→宮城万路高校実践教養コース3年6組
この物語の主人公、中性的な魅力の持ち主
宮町綺那
総合コース3年6組・チアリーディング部
ミーハーでイケメン大好き
宮町陸之助
総合コース3年9組・サッカー部
綺那が夢中になっている悪友