1、瞳の綺麗な女の子
主人公:アリシャ
今日は獣肉祭の一日前。
この前のことは忘れられない。
ずっと暮らしてきた親友が、あんなことになるとは。
あんな話、聞いたことがない。
村の伝記にも、載っていなかった。
図書館のすべてを探しても、「人狼」なんてなかった。
きっと、家に行ったら居てる。
あの人は。
ルーラルは、きっと。
私は家を出て、前にある村の中で一番大きい道路を右に曲がる。そして二つ目にある右側の路地に入って、三軒目の家に着く。
ここがルーラルの家だ。
結構近い。
木製のドアをノックすると、おばさんが出てきた。
なんだかやつれている。
ルーラルは・・・
いや、だめだめ。こんな勝手な妄想。
あれは夢なんだから。絶対に。
蜘蛛は喋れないし。
狼だって喋れない。
「入って」
優しい声でおばさんが言う。
「ルーラルがいないの」
・・・。
「そう・・・ですか。いつからです?」
どうか。
この前からって言わないで。
お願いだから。
「この前からなの。森に入ったっきり帰ってこないわ。アリシャちゃん、何か知らないかしら?」
勿論、狼になったとは言えない。
言ったところで信じてもらえない。
「途中まで一緒でしたけど・・・確かに、いませんでした」
とっさに口を突いて出てくる嘘の単語を並べる。
いないんだ。
「そう・・・。一応村長にも言っておいたから、なんとかなるわよね。安心して待っていてね、アリシャちゃん」
「わかりました。私も探してみます。そんなにお気に病まないで、安心してください。おばさんの方が」
「ふふふ、アリシャちゃんは気づかいがいいわね」
さようなら、と言ってからそそくさと立ち去る。
いない。
ルーラルがいない。
どうしよう。
彼は狼になったんだ。
あれは夢じゃなかった。
わたしは。
私はどうすればいいのかわからない。
あの女の子にもう一度会いにはもういけない。
どうすれば・・・
「アリシャちゃん」
誰かが声をかけてきた。
「どうしたんだよ、そんな辛気臭い顔しちゃって」
村長だった。
「こんにちは、村長さん」
「こんにちは」
ひとまず挨拶。
「アリシャちゃん、これ、出てみない??君に合ってると思うんだけど」
一枚の紙。
チラシだ。
・・・。
「獣肉祭の巫女?!そんな怖いもの、でるわけないじゃないですか!!」
「まあまあ、そんなこと言わずに。毎年何もないだろう?ほかのとこはちょっとやばいらしいけど」
「だから嫌なんです!四大陸の内三大陸の巫女が失踪、行方不明ですよ?!」
「ここはまだだろ?」
「まだだから、来るかもしれないでしょ!出番が!」
そう。
四大陸の四つの国々・・・といっても小規模だが、一大陸につき一人、獣肉祭の時に祈る巫女が選出される。
そして、四年前から、タンダ、マドワ、シンカラの順に(オルフから遠い順に)巫女が失踪し、未だ見つかっていない事態に陥っている。
そして、どこの誰かもわからない者が、一緒に消え、遺体となって見つかった。
怖い仕事なのだ。
最初はただのでまかせだと思っていたが、本当に新聞になって全四大陸に知れ渡った。
それでも年に一度は決めなければいけない巫女。
巫女は、大陸の中から一人だけ、瞳の一番きれいな者が選ばれる。
男でも、女でも。たいてい女だが。
村長は、それに出ないか?と提案しているわけだ。
もう今となっては、目が綺麗でも、液体を入れて一時的に目を濁らせる人もいる。
だから、出願人数はゼロなのだ。
死にたくない、という生きるにおいて大前提である願望が、脳を遮るのだ。
「アリシャ、出るんだね。ありがとうな!」
へ??
「ちゃーんと、指印もらったから!!」
・・・は??!
「えっ・・・どういう」
「君がぼーっとするのが悪いんだよ!」
というわけで。
出願させられました。
夕方、選出通知が来た。
「今年の祈りの儀は、オルフペオで行うとする。巫女は、各地域にある台座で祈る。健闘を祈る。だって」
「よかったなあ!!」
「何がいいんですかあああ!!!」
「いいじゃん、村が活性化するぜ!!生きてたら、お前を村長より高い位につかせてやるぞ!!」
「健闘を祈るって、おかしいじゃないですか!ただ単に女神さまに祈るだけですよ!?なのに、おかしいじゃないですか!」
「風邪、病気のことだと思っとけ。よかったな」
最後に送る言葉みたいな感じで「よかったな」って言われても。
村長結構嫌な人だなあ。
とうとうやってきた、私にとっては死ぬ日。
獣肉祭。
楽しい獣肉祭だったはずなのに・・・
昔だって、ルーラルと・・・
って、あれ・・・
なんで・・・
なんで小さい頃の記憶が微塵もないんだろう・・・
不定期です。一か月空くこともあります。




