第一話 黒の姫
ラルー=ルーラル
姫=???
第一話 黒の姫
一日目続き 日の出前
老人「アリシャ、あそこには入ってはならんぞ」
「じいちゃん、私が行くと思う?」
老人「お前が採りにいこうとしている霊草はな、禁忌の聖森にあるのじゃ」
「それなら行くかもしれないわね・・・」
老人「ふざけたことを言うんじゃない!もしお前が入れば、この村は終わるのじゃぞ!」
「滅びるのかわからないじゃない?あんな新しい紙に書かれた伝記なんて、信じるものじゃないわ」
老人は顔を硬直させた。これは怒っている証拠だ。
ドンッ、と音を立てて、老人は外に出て行った。
村の大人「日の出だー!森に行くやつは集まれー!」
ベルをカランカランと鳴らし、寝ている人々を起こす。
ルーラル「アリシャ行くぞ!起きろ!」
ルーラルが窓の外からモーニングコールをした。
「るさぁいわぁ・・・ふぁぁぁ・・・
もうちょっと・・・寝させてよ・・・・むにゃ」
ルーラル「起きろ!霊薬採るんだろ!」
「らるー・・あなたがとぉってきて・・・めんどくさい・・・」
ルーラル「ったくよぉ・・・んー、じゃあ、お前が起きたら獣肉祭の肉、お前に半分やるから」
「なにっ!それ本当!約束よ!!ぜっったいに、約束よっ!」
ルーラル「うんうん、わかったから。その格好を見させないでくれ。恥ずかしくて・・・」
自分の姿をちらりと見る。
裸だ。
「!!」
ルーラル「俺はー・・えっとそのぉー・・・ちょっと見ただけだから!」
外の大人「おいルーラル、さっきから目ぇひんむいて何みてんだぁ?いいもんでもあんのか」
大人が三人寄ってくる。
ルーラル「ち、ち、ち、ちがっ!アリーを起こしてたんだよおっさん!」
おっさん「へぇ・・・アリシャのお嬢さん、いまやっと服着替えたって感じだけど・・・まさか」
ルーラル「裸なんて!こいつの裸体なんて!!見てないし!!絶対見てないし!!」
おっさん「おろろ?こいつの寝間着姿が可愛くて見入ってたんじゃなかったのか?」
ルーラル「・・・こいつの寝間着、目が痛くて見れねぇんだよ」
おっさん「すまんな、ヘンなこと言って」
ルーラルは幼いころから目の呪いにかかっている。
私が着ているような服の模様を見ると目がズキズキ痛むらしい。
「ごめんなさい。また服、変えないとね」
ルーラル「とか言っていっつも派手なやつ買うじゃないか」
おっさん「お前らほんと仲いいよなぁ。おじさんも、昔はそうだったんだけどなぁ・・・」
「あれでしょ?私のお父さんにとられたってやつ」
もう何回も聞かされた。
私のお父さんは狼に喰い殺された。らしい。
おっさんは村一番の猟師で、毎回一番大きな獣を狩ってくる大物だ。
それを上回る猟師がお父さんだったという。
その二人が敵わない狼が、十匹以上いたらしいのだ。
あいにくお父さんは逃げ遅れ、喰い殺された。
お母さんはそれを聞き、ショックで倒れた。その後遺症で、大病を患ってしまったらしい。
ルーラル「ほら、行くぞ。お母さんに挨拶していけ」
お母さんにキスをし、二階の窓から木を伝って降りる。
お母さん「あ・・・いっじゃだべ・・・おどざん・・・じんだ・・・」
「大丈夫よ。禁忌の聖森には踏み込まないから」
お母さん「あーーー・・・」
お母さんは何か重要なことがある時以外、あ、としか喋らない。
それを治せる霊草が、禁忌の聖森にあることを老人から聞いた。
老人が場所を言ってくれなかったら、ずっとどこにあるのかわからないままだった。
勿論、そこが危険だと知っている。
だけど。
こんな状態のお母さんは、見たくなかった。
日の出 十分後
大人「行くぞ!ついてこい!くれぐれも離れないように!狼を見かけたら叫ぶこと!」
村の人々は騒いでいる。
そして、一団は出発した。
森の中
おじいさん「毎年大丈夫なんだ、安心しなさい。君は山菜採りグループなのか?」
「ええ。ちょっと珍しいのを」
おじいさん「君のお父さんみたいなことをするんじゃないよ。危ないんだから、注意は聞きなさいね」
「知ってるわ。それくらい、そこらへんの大人に聞かされたもの」
おじいさん「ぜったいだよ。ルーラル君がいてたら安心なんだがなぁ」
「大丈夫ですから。さようなら。ラルーの所に行くので」
そういって一団を離れた。
山菜を収集している人に見つからないよう、こっそり、ひっそりと森の中へ進んでいった。
粉のような光が飛び始めた時、顔に蜘蛛の巣が引っ掛かった。
「はぁ。今日はめんどくさい日ね」
??「君、もう進まない方がいいよ」
「誰!」
??「君には見えない。私は君の鼻にのっている蜘蛛を借りて話しかけているのだから」
「蜘蛛・・・」
確かに、鼻先には蜘蛛がのっている。
それが喋っているというのか。
「あなたは誰?なぜ私を止めようとしているの?なぜ入ってはいけないの?」
??「ここは禁忌の聖森。もし入ったとすれば君は喰い殺される。君の父のように」
「なぜそれを知っているの?そんな幼そうな声をしているなら、そんなことはしらないはず」
??「ここの一分はそちらの一年間。君が二分ここに滞在すれば、ルーラルだったかな、彼は十三 歳になっているよ」
「ルーラルが何?別にどうでもいいの!私は母さんを治せたらなんだっていい!」
??「君は・・・そんな人だったんだね。知らなかった。私は君が村中で一番好きだったのに」
「あなた・・・本当に誰?」
??「君の横に。いつも隣で、人の屍を借りて生きていた、人になりきっていた」
恐る恐る横を見る。
そこには。
背丈が同じぐらいの少年がいた。
ルーラルだった。
「え??どういうこと??え?」
すると、ルーラルが震えだした。
ルーラル「僕は・・・僕は君が好きだった。目が悪い僕に優しかった。でも、でも・・・!!」
「ルー・・ラル??」
ルーラル「君は!!君ハァッ!!全部お母さンでいっパイダッタ!!僕ナンか・・・ドウデモイイッテ!」
口から赤い液体がこぼれだし、痙攣しだした。
ルーラル「ハァッ、ハァッ・・・君ヲ・・・キミヲヲ・・・」
「ルーラル!?」
ルーラル「タベタイィッ!キミノカラダゼェェェンブダベテアゲルヨォッ!ホカノヤツニハアゲナイッ!キミハボクノモノ ォッ!!!」
薄い灰色の毛が生え、四足歩行になったルーラルは、もう、人間ではなく、狼だった。
殺意、憎悪、狂愛の色が、眼球に渦巻いている。
毛を逆立て、唾液を垂らしながら、硬直して逃げられない私に近付いてくる。
「やめてぇっ・・・!あなたが・・・あなたが嫌いなわけじゃないの!」
ルーラル狼「ルセェ・・・オレオマエタベル・・・タベ・・・ル・・・」
もう言葉を喋れなくなっていた。
???「もう彼は人間でもない。人間には戻れない。あなたが彼の人間をこわしてしまったから」
狼は近づいてくる。
「た・・・たすけて・・・」
???「あなたに救済が降りることはもうないでしょう。今回でもう終わりです。今日は一回助けまし た」
一回とは何なのか。
すると。
黒いフードを鼻先まで被った正体不明の何者かが降りてきた。
しゅばっ、と音を立てて狼の目前に立つ。
狼「グルルルル・・・・」
フードの人が指をクイッと動かす。
すると、木陰から二十匹もの狼の軍勢が現れた。
「?!」
???「ほら、これはあなたの欲しがっていた霊草です。もうここには来ないで下さい。そのときは、あ なたを外敵とみなして殺します。早く逃げてください」
「一回って・・・なんのことなの?」
???「あなたが呑気に寝ていた時のことです。あなたの、旨いのかはわかりませんが、裸体を見、危う くこやつが人狼になりかけました」
おじさんが言っていたのは・・・それのことだったのか。
一匹の狼「姫、早くしないとこいつが死にますぜ」
姫「ああ。・・・早くしなさい」
「助けてくれてありがとうございます。名前つけるなら、ルーラルにしてあげて下さい」
姫「わかった」
そして、来た方向の反対側に走っていった。




