永遠の象徴の橘に/うやうやしく手を掲げてそっと囁く
「ありがとうございました!」
お客さんを見送って、寒い中大勢いるお客さんのウキウキした様子を、活気のあるクリスマス関連の屋台を、駅前の中央で圧倒的なパワーを発するクリスマスツリーを見ては、うおおおおと内心で叫ぶ。
駅前で開催されているクリスマスマーケットの短期アルバイトに勤しむ俺の目的はたった一つ。
自分の力で稼いだ金で美影が出演する舞台のチケットを買う事。
十二月二十日から二十五日の六日間。
夜だけ行われる舞台の題目『やのくのめ』を全部見る為だ。
チケット代は一回三千五百円。六日間だから二万一千円。
アルバイトは十二月一日から十二月十九日まで。
時給は九百円。平日火水木金は午後八時から十一時の三時間で、日曜日は午前九時から午後五時までの休憩が一時間あるから七時間。しめて、四万八千六百円。
徒歩なので交通費はなし、平日の夕食は八時前に行けば働き先が用意してくれているし日曜の昼食も然り、なのでメシ代はなし、短期なので他に引かれるものはなし。丸ごとゲットで、チケット代を引けば残り二万七千六百円。
(これで花を美影に贈るんだもんねー)
「渚君。寒くないかい?」
「はい。むしろ熱いくらいです」
クリスマスグッズの手作り販売をしている働き先は、美影の父?かもしれないコンビニエンスストア『たけ』の店長が店員さんたちと一緒に出している屋台だった。
売り物は、小さなクリスマスツリー、オーナメント、リース、サンタクロースやトナカイや雪だるまや小人の人形、スノードーム、カード、中身が同じものは一つとないらしいクリスマス限定の肉まん甘味まんだ。
売り物なのだから当然なのだが、どれも本職の方たちが作ったのではと驚くくらいのクオリティで、店員のおばちゃんおじちゃんおねえさんおにいさんを尊敬するばかりだ。
「やっぱりクリスマスっていいよねー。ウキウキしちゃうよ」
「ですよねー。俺もウキウキします」
「こんなに寒いのにみんな笑顔だしねー」
「ですよねー。俺も自然と笑顔になります」
「一年で一番ピカピカしているしねー」
「ですよねー。電飾バンバン使ってますもんね。少し目が痛くなるくらいなのに、少なくしてほしいなんてぜんっぜん思わないんですよね不思議ですよね」
「そうだよね。あっちもこっちもチカチカピカピカしているのに、少なくしてほしいって思うよりもっと増やせって思っちゃうよね」
「あ。いえ。あの。これくらいが俺にはちょうどいい、です」
お父さん?に好かれる為には同意すべきかとも少し迷ったが、やはりここは正直に言った方がいいと判断した俺は素直な気持ちを吐露した。
これから長い付き合いになるのだ。
嘘偽りダメ。正直ダイジ。
(だって俺やっぱり美影と一緒にいたいし)
自分で考えて。
棚田さんに相談して。
左之助に相談して。
悩んで、悩んで、悩み抜いて、導き出した答え。
男じゃなくたって、美影とずっと一緒にいたい。
生涯のパートナーになってほしい。
自力で養えていない大学生の分際で何を言っているんだとか。
美影の事をよく知りもしないのに何を言ってんだかとか。
性欲問題はどうすんだ何も解決してないのに何言ってんだとか。
ゲイなのに女性をパートナーに選ぶなんて何言ってんだとか。
真田と交際している美影にフラれた分際で何言ってんだとか。
何言ってんだ問題は山積みされているけど。
(だって俺やっぱり美影とずっと一緒にいたいしね!)
男だったらいいとか、絶対これからも思うけど。
それでもし美影に嫌な思いをさせたらと思うと身もすくむけど。
もしも。
もしも美影がそれでも俺の手を取ってくれたのなら。
これからの俺を見て、俺の手を握ってくれたのなら。
人には満たされずに空っぽのままの容器があって。
その容器にはどうあがいたって注がれることはないけど。
注がれない事でスース―する事もあるけれど。
多分、寒くなって痛くなったりする事もあるけれど。
空っぽの容器だけじゃないだろう。
別に大きな容器を用意してそこにいっぱい満たして行けばいいんだ。
だからってスース―からは逃れられないだろう。
スース―からは逃れられない。
スース―自分もいたっていいじゃないか。
スース―自分だけじゃあないだろう。
と思う事にした俺は、なんだか、すごく力が漲っている。
(美影に会いに行くんだ)
もしもう一度フラれたら。なんて一切考えないもんね!
(2021.12.2)




