一編みひとあみこんで手の形になった袋/片っぽでも揃っていてもからっぽだった
自分には腹を痛めて産んだ子も、他の人に産んでもらった子も、預かっている子もいないと、夫は言うのに。
どうしてだろうか。
捜してしまうのは。
将来授かる子を捜しているんじゃないか。
夫は優しいし、愛情を一心に注いでいるのは、多分初対面の人でも分かるくらいなのに、どうしてだろうか。
性交渉をしようとは言わない。
熱愛中の恋人のように抱擁はきついのに、子どもに挨拶をするくらいにキスは唇を軽く押し付けるだけ。
なんでもっと触ってくれないんだろう。
そんな不満を抱かないばかりか、触られない事に安堵している自分もいる。
だってもし授かりでもしたらまた傷つけてしまうから。
授かってないのに、どうしてこんなに胸が痛くなるのだろう。呼吸がままならなくなるんだろう。
夫の微笑がどうしてこんなにも嫌になるのだろう。
分からない。
分からない。
分からないのに、
どうしても喪失感が拭えない。
もしかしたら。
もしかしたら、お腹の中で殺しちゃったのかな。
この両のかいなに抱くことなく。
殺しちゃって。
耐えられなくて。
忘れちゃったのかな。
断罪してほしくて、夫に言えば、夫は子どもが授かった事は一度もないと優しく慰めるだけ。
優しくしてほしいんじゃないのに。
じゃあ、殴られたり蹴られたりしてほしいのだろうか。
おまえは変だと罵ってほしいのだろうか。
自虐的な性癖でもあったのだろうか。
(ああ、でも確かに、言われた事がある、ような)
小さな子ども。小学校に入りたての子ども。
変だ。頭がおかしいと。
子どもを。しかも自分の子どもじゃない子どもを殴るなんて変だおかしい。
おまえがそんなんだからおまえの子どももおかしいんだ。
ずっと食べ物を食べてるおかしな子どもになるんだ。
俺たちの暮らしに入ってくんな病院で一生過ごせ。
おまえたちは普通になれないようにつくられたんだから。
何をしてくるか分からない恐ろしいいきものなんだから。
真っ赤に膨れ上がった頬と瞼と。
唇から流れる一筋の血と。
抜け落ちた乳歯と。
殴られたのに怯えなど一切なく、それどころか暴力をさらに正義へと昇華させた子どもは胸を張って、高揚させては弾劾したのだ。
自分の今までの言動は正当だった。
おかしな人間を追い払う為に必要だったんだ。
この世を守る為に必要だったんだ。
謝る声がする。
泣き声を上げながら、ごめんなさいと謝る声。
何に対する謝罪だったのだろう。
殴る自分に対してもう止めてくれと停止を乞う謝罪だったのか。
いじめをした自分の子どもの代わりに赦しを乞う謝罪だったのか。
頭が変でおかしい私たちに優しく接せられなかった、己の行いを悔い改める謝罪だったのか。
そんなものはいらないからもうわたしたちにふれてくれるな。
かってにわたしたちのなかにいらないものをつめこんでこないで。
(美影ちゃん)
一瞬間。血に染まった手を見たような気がしたが、目の錯覚だったようだ。
ひどく痛む感覚も。
(美影)
名を呼びたい。
何度も、何度も。何度だって。
名前を呼んで、抱きしめて、好きだって、大好きだって、愛しているって。
例えば世界中の人が敵に回ったとしても。
例えば愛する夫が敵に回ったとしたって。
私はずっとあなたの傍にいるって。
あなたの味方だって護るって。
まもるって。
誓ったのに。
「まもれなかった」
声を喉に詰まらせて激しく泣きたかったのに。
そんな資格などないと嘲笑うかのように。
もう涙は枯れ果てていると労わるかのように。
涙は一滴さえ生み出されずに。
会いたいのに。
話したいのに。
笑わせたいのに。
いっぱいいっぱい褒めてあげたいのに。
あふれるくらいに愛を注ぎたいのに。
生まれてきてくれてありがとうって。
伝え切れない感謝の言葉を目を見て手を繋いで。
何度も何度も何度だって。
なのに。
だめだと。
諫める声がする。
夫の声のようでいて。
確かに自分の声でもあった。
がまんをして。
もうあなたではわらわせられないのだから。
「できない」
(2021.12.1)




