ほうれん草を髪飾りに/茶の花をくちびるに、
合宿二週目の最終日。
全員が全員、それぞれの感性で選んだ竹を使った作品を発表する日が来た。
左之助、真田、奈古、吉柳、俺の順番だ。
左之助の作品は、実物大の野天傘の骨組みと縁台だった。
「竹林が身近にある地域で、永久設置しない仮設を前提とした屋外のイベントに使えないかなーと思いました。今回作ったのは野天傘と縁台だけですが、テントとかステージとかも作れたらいいなと考えています」
真田は、企画書を提案した。
「私も竹林が身近にある地域を想定した、美術館や博物館、図書館など公共施設に、コンクリートと併用して鉄筋じゃなくて竹を利用できないかと考えています。私が扱いたいのはコンクリートですが、放棄竹林の問題もある以上、何か併合できないか考えさせられました。あくまで前面にではなく補強材。裏方として竹を、そして自国産の素材を利用できないか模索していきたいです」
奈古の作品は、実物大の笠だった。
「私は竹を使って、照明器具を作ってみました。元々私は照明器具のコーディネーターを目指していて、竹細工にも目をつけてました。この笠は四ツ目編みですが、例えば、八女竹細工の編み方を見ても、百二十種もあるんですよ。形や編み方で、もちろん、竹じゃなくて他の材料を使って、照明の可能性をもっともっと広めていきたいです」
吉柳の作品は、実物大の扉と階段の一部だった。
「僕は扉や階段は夢や希望の象徴だと思っています。公共施設や遊技場に限らず家にも当てはまる。なので、木やガラス、アルミ、鉄などに限定せず、もっともっと多くの素材を使いたい。もっともっとわくわくするデザインを描きたい。そう思っていたところに、今回、運命の出会いを果たしました。竹。そう、竹。素晴らしい。先程奈古さんも申したように、多種多様な竹細工の編み方や加工方法を使うもよし、いやいや、裁断せずに大胆に竹一本使うもよし。僕も扉や階段の可能性をもっともっと広めていきたいです」
さあ。最後の俺が作ったのは、平屋を想定した家の一室の模型だった。
「家すべてではなく、家の一室だったり、一画だったりに竹の清涼感を感じられる箇所を作りたいと思いました。天井と壁は竹を丸ごと一本使って丸みを見せて、床は歩きやすいように竹材を原料とした建築材料を使いたいです。集成材、パーティクル、繊維を圧縮成型したパーティクルボード、繊維板。まだ開発中らしいのですが、もし建築材料として実用化できたのなら積極的に使っていきたいと思います」
先生がいるからじゃない。仲がいいみんなであっても、前に立って発表するのは、順番が回る前からやっぱり緊張した。なので、発表を聞いていく中で、固唾を飲んで見聞きしていたし、終わったら、力いっぱい拍手を送った。
単純だが、発表を聞いた感想は、すごいな、だった。
それぞれがもう進むべき道を見据えているんだ。
すごく具体的で、みんなが将来働いている姿が浮かべられたけど、俺はできない。
竹を家の一部に使ってみたいとは思ったけど、まだ具体的な家の設計は考えられていないんだ。
ただ、不思議と焦りはなく、やる気をいっぱいもらえた。
建築の可能性を広げてくれたみんなに、感謝いっぱいだ。
青田先生がもう一度大きく拍手をして、立ち上がった。
「竹の説明とそれぞれへの指導は後回しにするとして。この合宿がそれぞれにとっていい刺激になったみたいでよかったです。俺は建築に限らず、竹の可能性をもっともっと広めていきたいと思っていますので、お互いに頑張りましょう。次の実習は、廃屋の解体作業の手伝いと使える素材の判別方法を教えていきます。時期は近づいたら知らせますので。作品は湯通しや油抜きなど長持ちさせる為の処理をしていません。持ち帰ってから、どのくらいの期間で、環境で、朽ちていくかもきちんと観察、レポートにして提出してくださいね」
「「「「「はい」」」」」
「じゃあ、これから一週間は遊び放題だー!」
「先生、その前に指導をお願いします」
満面の笑みで片腕を高々と上げたかと思えば、真田に注意されて、肩を落としてしまった青田先生。でも次には噴き出したので、つられるようにみんなで笑いだしてしまった。
このゼミでよかったと、心底思った。
(さあ、次は)
この合宿が終われば、今まで逃げてきた事ときちんと向かい合うのだ。
その為に、吉柳にお願いをした。
ゲイの人たちの集まりに連れて行ってほしい。と。
「美影先輩。すごい」
「そうだよな」
菜乃さんが一人一人に指導をする時間。今は美影先輩が舞台に立って、演技をしている。まだ着物は着ていないけど、なんだか、実際に着ているみたいに錯覚してしまう。
指先から頭のてっぺんまで、目を引く艶がある。所作を一つたりとも見逃したくない。
高校の時は若さゆえの艶だけだったけど、今は老若男女すべての艶を引き出している。
でも、花があるって表現するのとは違うような気がする。
落葉樹みたい。
小さな芽吹きから大きな枯れまで、すべての季節に、年齢にあますところなく、注目して、艶を、生気をのせて、ううん。淡く溢れさせている。
身に着けたんじゃない。
身の内から出しているんだ。
その方法をここで学んだんだ。
「のえる。使うか?買ったばっかだから安心しろ」
隣で見物していた太郎先輩からビニール袋に入っているハンカチを手渡された。
あ。私、泣いている。
「いえ。新品のハンカチは洗ってから使う事にしているんで、結構です。でも、ありがとうございます」
「おまえ、ほんと本音を隠さないな。でも嫌な気持ちにさせないのがすごいな」
「ありがとうございます」
太郎先輩はハンカチを引っ込めて、私は首に巻いていたタオルで涙を拭った。
すごいな。
太郎先輩が言うので、私は大きく頷いた。
(2020.5.30)




