契約
(ハメられた)
俺は顔面蒼白になった。
→今すぐ逃げ出す。
悲鳴を聞きつけた誰かに現場から逃げ出す姿を目撃される。
→ゲームオーバー
→その場に留まる。
→断る。
悲鳴を聞き、人がなだれ込む。現行犯。
→ゲームオーバー
→承諾する
ろくでもないことを強要される。
→ゲームオーバー
これがハニートラップ!
背中を滝のように汗が流れる。
「分かりました……」
絞り出すように答える。
おかしい、憧れていた告白シーンが1ミリも嬉しくない。
これでは、告白ではなく脅迫ではないか。
まったくときめかない。
会長は満足げに微笑む。
そして、耳元で歌うように小声で言った。
「目を閉じてもらえる?」
「どういうつもりなんだ?」
「恥ずかしいから、ね」
先ほどプレッシャーは霧散して、会長の頬はわずかにピンクが差していた。
前言撤回。
不覚にもキュンキュンしてしまった。
いつもの自信満々な様子はなりを潜め、まるで初めて恋をした処女である。
既に高まっていた心臓の鼓動は、ここに来て限界まで跳ね上がった。
恋人。
恥ずかしい。
この符号が指し示すものとは……。
「お、おぅ」
情けないことこの上無い反応ではあったが、俺はギュッと目を瞑ることにした。
……。
………。
………………?
待てど暮らせど期待した感触は訪れない。
(!!!)
ふわりと長い髪が俺の頬をかすめる気配がする。
ついで百合の花に似た、強烈な甘い香りが鼻孔を刺激する。
反射的に体が硬直する。
「エッチ」
(?)
パタパタと、この場から急速に離れつつある足音に慌てて目を開く。
「これからよろしくね」
扉が閉まる直前、悪戯な一瞥とセリフを残し、会長は去ってしまった。
おちょくられた――。
俺は舞い上がった己のワキの甘さに対する怒りと、まんまと手玉にとられた恥ずかしさにさいなまれて、その場に下校時間までくぎ付けとなった。