準備
翌日、つまり体育祭当日。
俺は再び朝7時に教室を訪れた。
「ふうん、そんなことが書いてあったんだ」
昨日の解読結果を会長に伝えると、興味深げに頷いた。
「ところで会長はどうしてこの本を持っていたんですか」
「生徒会室を整理していたら偶然見つけたの」
いたずらっぽく笑う。
「その時思ったの、この学校にはもっとこんな似たようなものがあるんじゃないかって」
「でも、立場上おおっぴらに活動することはできない」
「だから江崎さんと加奈ちゃんを誘って秘密の活動をすることにしたのよ」
なるほど、それがこの前のカラオケボックスの邂逅だったのか。
俺は、北畠から預かった小刀を会長に預けようとした。
ところが、「お前に依頼した人物には気をつけろ」と北畠が昨日の最後にえらくまじめな顔で言ったのを、ふと思い出した。
「それじゃあ、この本返しますね」
「ありがとう」
会長は本を受け取るとやけに愛おしそうにその表紙をなでた。
「それじゃあ私は開会式の打ち合わせに行くわ」
そう言ってあわただしく教室から出ていく。
何故かその背中がやけに遠いものに思えた。
「と、言う訳なんだ」
俺は朝一から保健室で仮病を決めこんでいる北畠に今までの経緯を説明した。
会長を始め三人からはしゃべるなと言われているが、こいつに限れば大丈夫だろう。
何しろその中二病的な振舞いから、まともに取り合おうとする奴がいない。
「そうか、昨日帰ってから気づいたことがあるんだ、聞いてくれないか」
「いつもの口調はどうした、逆に気持ち悪いな」
北畠の目がかつてないほど真剣だった。
「わかった、聞くよ」
「昨日解読できなかった部分なんだが、あれはおそらく呪詛の文言だと思う」
「呪詛?」
思わず聞き返す。
「そう、わざと読みにくくなるようにはしてあったが多分そうだと思う、古くからその手のものは他人に見られないよう細工をするのが一般的なんだ」
「そしてばれてしまえばその効力を失うから秘密裏に行うんだ」
(会長が呪いを?それもオカルトに大真面目になっている)
普段なら笑い飛ばすはずだが、この時の第六感はなぜかそれに説得力がある気がした。
「じゃあ念のため一つだけ保険の策を用意しておくか」
それを聞いた北畠が嬉しそうに身を寄せる。
「さしづめ貴殿は黒田官兵衛か真田信繁といったところだの」
普段の様子に戻ったのはいいが近寄られると暑苦しい。
あと保健室には俺ら以外いないのに耳元で話す意味が分からない。
うんざりしながら保健室をあとにする。




