昔話
「やったぜ!」
突然、北畠が立ち上がった。
右手を高々と掲げ、ガッツポーズを取っている。
時刻は午後5時半そろそろ下校時間が気になるころだった。
「やっぱすげーな」
イヤミ抜きで純粋に称賛する。
「某の禁じられた力の前ではこの程度ベイビーサブミッションでござる」
テンションが上がっているのか、設定がブレブレなことに気が付いていないようだ。
「それで何が書いてあったんだ?」
期待を込めて尋ねた。
ところが。
「それはごにょごにょ」
急激に肩を落としてトーンダウンした。
「はっきりしてくれ」
「文字が判別出来たのは冒頭の一部分のみなんだ、それ以外は本自体の劣化が激しくて文字の判別がつかなんだ」
「いや、それでも大助かりだ、やっぱり頼んで正解だった」
素直に感謝する。
すると余程嬉しかったのか、
「ふふ、何のこれしき。某と貴殿はかつて背中を預け合い、ともに戦った友であろう」
とかめんどくさいことを言い出した。
「下校の時間も近いから早く」
「お、おう」
急かすと解読した部分の内容を説明しだした。
それは以下のような話だった。
「むかしむかし、ある山に××という鬼が住んでおった。
この鬼はしばしば近くの村や町を荒らしていた。
口から火を吐き、あたり一面を焼き払っては、
男も女も、老いも若きもむさぼり喰らっていた。
ところが、ある日、若く大層美しい旅の巫女がこの地を訪れた。
鬼の話を聞き、皆が止めるのも聞かず、その山に入って行った。
それから三日三晩あたりには鬼の咆哮が轟いた。
そして4日目、人々が恐る恐る山に入ってみると、
もはや鬼の姿はなく、巫女の持っていた小刀だけが残された。
人々は巫女の犠牲を讃えるため、この地に神社を建立した」
「ふーん、なるほど、そんなことが書かれていたのか」
感想を漏らすと、北畠は頷いた。
「そしてその小刀はおそらくこれの事だ」
北畠が桐の箱を開けるとそこにはペーパーナイフのようなものが入っていた。
ひどく赤さびにまみれてはいるが刀身にはうっすらと文字のようなものが見える。
「よかったらこれも持っていくか?」
北畠が聞いてきた。
「いいのか?」
思わず聞き返す。
「どうせ誰も覚えておらん、事実、某も今の今まで存在を忘れていた。それに依頼者にとってもその方がよかろう?」
それもそうだと思い直し、桐の箱を受け取る。
「明日の体育祭はいつも通り保健室か?」
「是非もなし」
若干用法が違う気もしたが、機嫌が良くなっている時に水を差すのもどうかと思い黙っておいた。
ちなみに北畠にとって学校をズル休みするのは、悪であるが、仮病でサボるのはセーフらしい。基準がよくわからん。
こうして俺は怪しげなアイテムを2つ持ち帰路に就いた。




