古書
翌朝7時少し前、俺は学校の中を自分のクラスに向かって歩いていた。
こんなバカ早い時間に登校したのには訳がある。
『明日朝7時、教室で待ってる』
昨日の夜、江崎と別れた後にこんなメッセージが会長から返信されていたからだ。
(眠い)
こんな朝早くに呼び出して、いったいナニをしようというのだろうか。
ひょっとして、教室には誰もいない、とかじゃないだろうか。
あの会長なら面白半分でホントにやりそうだ。
教室に入る前、少し立ち止まって気持ちを落ち着かせる。
ガラガラガラ。
果たして、教室に入ると、そこはもぬけの殻、ではなく会長は自分の席についていた。
何かの本を読んでいるようだ。
「おはよう」
「お、おはよう」
朝日に照らされた会長の笑顔が眩しい。今までの経緯が無ければ、確実に落ちていただろう。
そう思わせるには十分な魅力があった。
「いったい何の用事ですか」
「これを見てくれる?」
会長は眺めていた本を手渡してくる。
パッと見ると和綴じの、それもなかなか古い本のようだ。
「中見てもいいですか」
「どうぞ」
本を受け取る。
受け取ってすぐ、強烈な違和感を覚える。
原因はすぐに分かった。
表紙と裏表紙に何かの動物の皮が使われているのだ。
通常の和本では考えられない、多分。
「これはなんですか」
「学校で保管されていた古書なの、でも私には何が書いてあるのかさっぱりで」
パラッとめくって中を見ると目まいがした。
保存状態が悪い上に、かなり崩れた草書体で書かれている。
何がなんだかまるで分からない。
ずっと見ていると頭が痛くなってくる。
「明日朝までに何が書いてあるか調べてほしいの」
「そんな無茶な」
相変わらずの理不尽である。
「あなたに拒否権があると思う?」
無駄にいい笑顔で微笑みかけられる。
思わず押し黙ってしまう。
「一部でも分かれば大丈夫」
「だから、お願い、ね」
「分かった」
俺は渋々了承した。
「後でお礼にいいことしてあげるから」
(いいこと……だと……)
動揺を悟られまいと平静を装う。
「先払いしてもいいけど」
会長が突然俺の手に自分の手を重ねてきた。
まるで白磁のような白さで、そのしなやかで繊細な感触は美術品を連想させられる。
「その手には乗らない」
俺はやんわりと振りほどいた。
プロ童貞は迷わない。
前回は失態を晒したが、二度同じ手は喰らわないのだ。
それがプロ童貞の意地なのだ。
ちなみに素人童貞という言葉はホントにあるがここでは1ミリも関係ない、おそらく。
「そう、残念」
「この本今日だけ預かっていいですか」
「ええ明日朝、開会式前に返してね」
俺は正体不明の本を受け取った。




