耳年増
予想外の妹の様子に戸惑いながらも部屋の中に招き入れる。
勉強机の椅子を加奈に譲り、自分はベッドに腰かける。
ところが待てど暮らせど話を切り出す気配が無い。
これがいつもであれば、俺のやらかしに対し罵詈雑言を浴びせてくるはずだ。ひどい時には殴ってくることもある。
「どうした」
仕方なく俺から水を向ける。
「柿崎先輩のことなんだけど」
「やっぱり付き合ってるのか」
「ちがう」
どうやら噂はガセだったようだ。
なぜか一安心した。
「でも告白はされた」
「ファッ!?」
「うっさい」
充血した目で睨みつけられた。
おとなしく黙って聞くことにする。
「とりあえず返事は一週間待ってもらうことにした」
「なんですぐに決めなかったんだ」
「笑わない?」
「もちろん」
「恋人になったら多分キスとかするよね」
力強くうなずく。
「ひょっとするとキス以上も」
「当然だろ」
現役高校生の性欲舐めてもらっては困る。
もしプラトニックな関係を貫くことが出来る奴がいるとしたら、そいつは隠れホモかEDに間違いない。
「そういうのちょっと怖い」
(ブッ)
普段ビッチぽい加奈がそんなことをいうとは夢にも思わなかった。
いつも友達と恋バナをしてるくせに、いざ自分の番になるとしり込みするとか、どんだけ純情なんだよ、プギャー。
鬼の形相がそこにあった。
「ちょっ待てよ。首しめようとすんな、マジ柔道部はシャレなんないから」
どうやら少し漏れていたらしい。
危うく絞め落とされる所だった。
「で、どうするんだ」
「わかんない……」
ラチがあかないので一つ提案してみる。
「俺が明日、明後日でどんな奴か詳しく聞き込みするからそれを参考にするか」
「ありがとう」
普段ウゼェとしか感じない加奈も、こうあからさまに元気がないと、助けてやりたいと思ってしまう。
俺もずいぶん甘いもんだ。
「先に風呂入ってこいよ」
「うんわかった」
素直に部屋を出ていく加奈。いつもはこうはいかない。
ちなみに、俺の後の湯は絶対に使おうとしない。
「さて」
引き受けてしまったからには調査しなければならない。
問題は俺の交友関係が絶望的に狭いことだ。
「あいつしかいないか」
俺は数少ない伝手に連絡を取るためアプリを起動した。
幼馴染の柔道部、江崎美智。
明日3/21午後8時10分次回投稿予定




