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低スペック男爵令嬢は必死です――夫適性試験に合格しない殿方とは結婚できません

掲載日:2026/09/10

低スペック男爵令嬢は必死です――夫適性試験に合格しない殿方とは結婚できません


 春の結婚市場が始まる三か月前、十八歳のリネット・オルブライト男爵令嬢は、自分が低スペックであることを認めた。鏡に映る髪は薄茶色で、瞳も薄茶色、顔立ちは街ですれ違っても三歩で忘れられそうなほど平凡である。魔力量は湯を一杯温めれば半分になり、刺繍をすれば薔薇が赤い毛虫になり、持参金は父が投資に失敗したため金貨三十枚しかない。リネットは色褪せた若草色のワンピースの袖を繕いながら、卓上の冷めた豆のスープを見つめた。


「私、かなり必死にならないと結婚できないわ」


 向かいに座る姉のアイリーンは返事をせず、蜂蜜を入れていない薄い紅茶を飲んだ。五年前、美貌を見込まれて侯爵家へ嫁いだ姉は、部屋に火が入っているのに襟の高いドレスを着て、手首まで長い手袋で隠している。夫が作った借金を補うため、真珠の首飾りも婚約指輪もすでに売っていた。久しぶりに実家へ戻った姉の鞄からは、安宿で使われる強い石鹸の匂いが漂っていた。


「必死になる方向を間違えては駄目よ。私は家柄と顔と、踊りの巧さだけで夫を選んだわ。あの人は私の持参金を使い切り、愛人の家賃まで私に払わせたの」


 アイリーンはスプーンを手に取ったが、豆を一粒すくっただけで皿へ戻した。父は世間体を気にして姉を婚家へ帰そうとしたが、リネットは自分の寝台へ姉を寝かせ、納戸から古い毛布を運んで床で眠っている。離婚するにも、別居するにも、明日食べるパンを買うお金が必要だった。持参金の乏しい自分には、姉よりも逃げ道が少ない。


「低スペックの私は、失敗した結婚から逃げるお金もない。だったら、夫選びだけは妥協できないわ」


 翌朝、リネットは父の書斎から紙を五枚もらい、台所の隅で質問票を作った。料理人が焼いてくれた固い黒パンをミルクへ浸しながら、思いついた質問を一本の短い鉛筆で書き込んでいく。窓辺の鉢では、アイリーンが嫁ぐ前に植えた黄色いクロッカスが二輪だけ咲いていた。書き上がった文章を確認したアイリーンは、三番目の質問を指で二度叩いた。


「『妻と母親の意見が対立したとき、誰に我慢させますか』。これは面白いわね」


「お母様を大切にする男性は素敵です、という顔をしながら答えを待つの」


「『もちろん妻だ』と言ったら?」


「不採用よ。自分の母親の相手を、どうして他人の娘にさせるの?」


 春の園遊会で、リネットは新調できなかった淡い灰色のドレスを着て、腰にだけ青いリボンを結んだ。庭には白と紫のヒヤシンスが並び、焼き菓子には菫の砂糖漬けが飾られている。令嬢たちが花のようなドレスで歩く中、リネットは縁談を申し込んできた三人の令息を東屋へ集め、夫適性質問票を配った。最初に紙を読んだ伯爵家の長男は、葡萄酒をむせて白い上着へ飛ばした。


「借金の金額だと? 君は私を侮辱しているのか」


「いいえ。金額を尋ねております」


「伯爵家の嫡男である私に、たかが男爵令嬢が審査をするつもりか!」


 周囲にいた令嬢たちが、扇の陰から東屋をうかがった。リネットの膝は薄いドレスの下で震えていたが、アイリーンの襟元から一瞬だけ見えた青い痕を思い出すと、質問票を引っ込める気にはなれなかった。テーブルには苺のタルトが残され、甘い匂いに誘われた蜂が一匹、皿の上を飛んでいる。リネットは蜂を傷つけないようナプキンで追い払ってから、伯爵令息を見上げた。


「私は持参金も少なく、実家へ戻っても一人では暮らせません。選び間違える余裕がないのです」


「そんな条件の悪い女が、男を選べる立場だと思っているのか」


「はい。条件が悪いからこそ、必死で選びます。ところで、借金額をお答えいただけますか?」


 伯爵令息は質問票をテーブルへ叩きつけて立ち去った。残る二人も、「母には逆らえない」「料理も洗濯も使用人がする」と答えて不合格になった。その日のうちに、低スペック男爵令嬢が身の程知らずな試験をしているという噂が広まった。父は帰宅したリネットを叱ったが、母は黙って夕食の鶏肉を一切れ多く皿へ載せてくれた。


 アイリーンは寝室で、古い指輪の跡が残る薬指をさすりながら、質問票を十枚書き写していた。窓の外では風が鳴り、暖炉では細い薪がぱちりと爆ぜている。妹のために新しい羊毛の靴下を編んでいたアイリーンは、扉を開けたリネットへ一枚の手紙を差し出した。


「あなたの質問票を、ぜひ受けたいと言っている方がいるわ」


 四日後、訪ねてきたのは貧しい子爵家の次男、ノエル・カーティスだった。焦げ茶色の上着は肘の部分だけ布が新しく、磨かれた靴にも細かな傷がある。顔も背丈も魔力も平均的で、爵位を継ぐ予定もない。応接室の花瓶には庭で摘んだ水仙が三本生けられていたが、そのうち一本は花の重さに負けて首を曲げていた。


「まず、こちらが僕の回答です。借金はありません。貯金は金貨二十三枚と銀貨九枚です。給金は月に金貨四枚ですが、今年の秋から五枚になる予定です」


 ノエルは回答だけでなく、革表紙の帳面まで持参していた。茶葉を買った日、靴底を直した日、職場の同僚へ昼食代を貸した日まで書かれており、最後の貸金には「返してもらえない可能性あり」と小さく記されている。リネットが吹き出すと、ノエルは耳を赤くして焼き菓子を半分に割った。中から杏のジャムがはみ出して指につき、彼は慌ててハンカチで拭った。


「妻が病気になった場合、料理はスープと卵料理なら作れます。洗濯もできますが、白い服と赤い靴下を一緒に洗った前科があります」


「正直ですね」


「結婚後に発覚するより、今知られた方が被害は少ないでしょう」


「では、お母様と奥様が対立したら、どうしますか?」


「両方の話を別々に聞きます。ただし、僕の母には僕が意見します。妻に母の機嫌を取らせるのは、僕が自分の仕事を妻へ押しつけることになりますから」


 リネットは質問票の合格欄へ丸をつけた。胸の奥が温かくなったが、すぐに結婚を決めるつもりはなく、次は三か月の交際審査だと告げようとした。ところが、ノエルは鞄からもう一枚の紙を取り出し、彼女の前へ差し出した。紙の上には、「妻適性質問票」ではなく、「共同生活適性質問票」と書かれていた。


「今度は僕が質問してもよろしいでしょうか。お互いに選ばなければ、公平ではありません」


「もちろんです。何をお聞きになりますか?」


「僕が病気になったら、あなたは一人ですべてを背負いますか?」


「いいえ。医師と、あなたの家族と、私の家族に助けを求めます。それでも足りなければ、ご近所にもお願いします」


「合格です。僕は何でも一人で看病してくれる妻より、一緒に生き残る方法を探してくれる妻が欲しいので」


 二人が交際を始めると、夫適性質問票は令嬢たちの間で急速に広まった。夜会の化粧室や刺繍の集まりで書き写され、いつの間にか「愛人への年間支出」「酒を飲んで壊した家具の数」「子供のおむつを替えられるか」という質問まで加わっていく。春が終わるころには、縁談の席で質問票を出すのが王都の流行になっていた。最初は娘たちの無作法だと怒っていた父親たちも、令息の借金を婚姻前に発見できると分かると、質問票を正式な調査書へ加え始めた。


 リネットを身の程知らずと笑った伯爵令息も、婚約候補の令嬢から帳簿の提出を求められた。そこで多額の賭博の借金と、踊り子へ贈った宝石の代金が明らかになり、まとまりかけていた縁談は白紙に戻された。それでも伯爵令息は、自分が選ばれない理由を理解できなかった。初夏の薔薇園でリネットを待ち伏せすると、借金の証拠を隠したまま尊大に胸を張った。


「リネット、以前のことは水に流して、私と結婚する名誉を与えてやろう」


 リネットは白地に青い小花を散らしたワンピースを着て、ノエルと食べるためのチーズ入りパンを籠に入れていた。薔薇の香りは濃かったが、伯爵令息から漂う香水の方が強く、近くにいた庭師が小さなくしゃみをしている。リネットは伯爵令息から差し出された不完全な質問票へ目を通し、赤いインクで大きな印をつけた。


「申し訳ございません。書類選考で不採用です」


「私より条件のよい男が、お前を選ぶと思うのか!」


「条件のよい方ではありません。私と条件を相談できる方を選びました」


 それから三か月後、リネットとノエルは黄色いマリーゴールドが咲く小さな礼拝堂で結婚した。豪華な披露宴は開かず、家族と友人に焼きたてのパン、鶏肉の香草焼き、林檎のパイを振る舞った。アイリーンは正式に離婚し、襟元の開いた空色のドレスで妹の隣に立っている。父は祝いの席でも持参金の少なさを気にしていたが、母からパイを口へ押し込まれて黙った。


 二人は王都の裏通りに、小さな結婚相談所を開いた。壁紙は自分たちで貼ったため一部が曲がり、窓辺には首の曲がった水仙から採った球根が置かれている。相談所では家柄や容姿だけでなく、借金、生活能力、家族との距離、病気になったときの対応まで確かめて縁談を結んだ。最初の一年で成立した結婚はわずか七組だったが、どの夫婦も翌年、二人そろって挨拶に訪れた。


 冬の朝、ノエルは少し焦げた卵料理を食卓へ並べた。外では雪が降り、暖炉の上には乾かしている靴下が二足ぶら下がっている。リネットは厚手の葡萄色の部屋着で椅子へ座り、焦げた端をナイフで切って口へ運んだ。苦みのあとにバターの味が広がり、隣には温かい豆のスープも用意されていた。


「今日の僕は、夫として何点でしょう」


「六十五点です。卵を焦がしたので減点しました」


「不合格ですか?」


「いいえ。明日も一緒に暮らしたいので合格です」


 ノエルは安心して自分の卵を食べ、焦げた部分の苦さに顔をしかめた。それからリネットの質問票を持ち出し、余白へ新しい項目を書き加えた。窓の外には雪しか見えなかったが、部屋の中では春に植えるクロッカスの球根が紙袋の中で眠っている。


「では、君も合格です。ただし、再審査は毎日行います」


「望むところです。私、幸せになることには必死ですから」


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