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第一話 偽りの宿泊客【解答】

いつも読んで頂きありがとうございます

ロビーは、百年前の構造を再現したように見えた。

ガス灯のような光。

当時の衣装を纏った人影が行き交っている。顔は判別できない。


「瀬戸」


九条の声が、直接届いた。


「それは未清算記憶の残滓だ」


老紳士の手が止まる。


「思い出せない……誰の名を使った」


顔の輪郭が崩れる。


「当該人物は、当時、暗殺任務を帯びていた」


九条は告げ、更に続けた。


「ただし、滞在中に職能を放棄した」


遥斗は理解した。

同情ではない。業務として。


「お客様」


遥斗は膝をつく。


「忘却したかったのは、その偽名ではありません」


沈黙。


「贈与する予定だった、本来の名前ではありませんか」


老紳士の動きが止まった。


「……そうだ」


万年筆が動きかけた。


その瞬間、影が集まった。


「瀬戸」


九条の声。


「肩代わりしろ。君の一部を差し出せ」


遥斗は迷わなかった。

指先をペン先に押し当てる。


血が落ちる。


カードに文字が刻まれた。


『加納 敬一郎』


影が消失する。

視界が戻った。


現代のロビー。

椅子は空席だった。


カードだけが残っている。


九条が拾い上げ、未清算リストを纏めた管理用端末に視線を落とした。


「未清算案件は解消された」


画面を切り替える。


「接遇中、正体認識は発生していない」


一拍。


「君は立っている」


九条は初めて、遥斗を見た。


「次は条件が悪くなる」


それで終わりだった。


褒め言葉はない。

達成を示す表示もない。


だが、遥斗は理解してしまった。


これは合格ではない。

昇格でもない。


評価が完了したのだ。


次があるという事実が、

それを何より明確に示していた。


遥斗は、静まり返ったロビーを見渡す。


ここは職場ではない。

選別された者が、役割を果たし続ける場所だ。


スーツの襟を正す。


次の“客”は、

すでにこのホテルのどこかにいる。

ここまで読んで頂きありがとうございました

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