第十話 【本配属】
いつも読んで頂きありがとうございます
瀬戸遥斗の端末に、通知が届いたのは、その直後だった。
【本配属通知】
配属先:グランド・インペリアル・ホテル
所属:接遇課(特別案件対応)
上長:九条 怜
理由の記載はない。
推薦文もない。
ただ、配置だけが確定している。
瀬戸は画面を閉じ、静かに息を吐いた。
評価された実感はなかった。
だが、拒絶された感覚もない。
ただ、ここにいることを、
許されたような気がした。
正確には、「許された」のではない。
「必要とされた」のでもない。
ただ、配置された。
それで、十分だった。
呼ばれたのは、ロビー奥の業務動線だった。
九条は、すでに立っていた。
「本配属だ」
告知だけだった。
「質問は」
「ありません」
瀬戸は即答した。
九条は頷きも否定もしない。
「君は、評価されない案件を扱う」
「はい」
「判断を下すとは限らない」
「はい」
「未清算を、未清算のまま残すこともある」
瀬戸は、わずかに視線を上げた。
「それは……業務でしょうか」
「業務だ」
即答。
「判断しないという判断も、ここでは記録される」
九条は歩き出す。
「評価されたいなら、他部署へ行け」
「……」
「ここでは、評価されないことに耐えられる者だけが残る」
瀬戸は、その背中を追った。
自分の中にあるものを、思い浮かべる。
確信でも、信念でもない。
恐怖でも、覚悟でもない。
ただ、埋めずに残した場所。
空白。
余白。
それがなければ、ここには立てなかった。
業務端末が、新しい案件を表示する。
【未清算案件】
分類:未定
評価:不能
処理:未実施
九条は立ち止まらない。
「次だ」
それだけ言って、歩みを進める。
瀬戸は端末を閉じ、制服の襟を整えた。
評価は終わった。
だが、業務は続く。
このホテルは、選別する場所だ。
救うためでも、排除するためでもない。
判断できないものを、判断できないまま扱うための場所だ。
瀬戸遥斗は、その境界に配置された。
評価されない者として。
そして――
判断を、保留できる者として。
ロビーには、今日も静寂が満ちている。
だが、その静けさは、
もはや瀬戸にとって異物ではなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございました




