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グランド・インペリアル・ホテル  作者: 一一一
第一章 観測対象
19/32

第九話 判断しないという判断【解答】

いつも読んで頂きありがとうございます

瀬戸は、その夜、業務終了後もロビーに残っていた。


判断を下さなかった。

だが、何もしていないわけではない。


判断が成立しない状態を、

そのまま維持している。


それは、逃避ではなかった。


九条の言葉を、思い返す。


――判断すると、成立してしまう。


未清算は、

誰かが「そうだ」と決めた瞬間に生じる。


では、

決めなければどうなるのか。


瀬戸は、端末を開く。


案件ログは、静止している。

だが、エラーは出ていない。


業務は、継続中だ。


「……問題は、起きていない」


それが、答えだった。


瀬戸は、理解する。


自分の中の“余白”は、

判断を遅らせるための欠陥ではない。


判断を、

必要な瞬間まで保留するための空間だ。


そこに、初めて役割が与えられた。


内線が鳴る。


「九条だ」


短い声。


「……はい」


「当該案件は、

 しばらくそのままでいい」


「了解しました」


一拍。


「君は」


九条は、続ける。


「判断をしなかった」


「はい」


「それは、誤りではない」


評価語ではない。

だが、否定でもない。


「記録する」


通話は、そこで切れた。


瀬戸は、受話器を置いた。


自分が、

評価されない存在ではなくなったことを、

はっきりと理解した。


同時に、

評価する側に完全に立ったわけでもない。


境界だ。


その位置が、

違和感なく、自分に馴染んでいた。


端末に、新しい表示が追加されている。


――判断保留適格者。


対象名:瀬戸遥斗。


評価でも、命令でもない。

だが、確かに"認識された"。


瀬戸は、端末を閉じる。


ロビーの照明は、いつも通り一定だった。


判断しなかった夜。


それは、

彼が初めて

「九条の隣に立てる可能性を得た夜」

だった。

ここまで読んで頂きありがとうございました

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