第九話 判断しないという判断【解答】
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瀬戸は、その夜、業務終了後もロビーに残っていた。
判断を下さなかった。
だが、何もしていないわけではない。
判断が成立しない状態を、
そのまま維持している。
それは、逃避ではなかった。
九条の言葉を、思い返す。
――判断すると、成立してしまう。
未清算は、
誰かが「そうだ」と決めた瞬間に生じる。
では、
決めなければどうなるのか。
瀬戸は、端末を開く。
案件ログは、静止している。
だが、エラーは出ていない。
業務は、継続中だ。
「……問題は、起きていない」
それが、答えだった。
瀬戸は、理解する。
自分の中の“余白”は、
判断を遅らせるための欠陥ではない。
判断を、
必要な瞬間まで保留するための空間だ。
そこに、初めて役割が与えられた。
内線が鳴る。
「九条だ」
短い声。
「……はい」
「当該案件は、
しばらくそのままでいい」
「了解しました」
一拍。
「君は」
九条は、続ける。
「判断をしなかった」
「はい」
「それは、誤りではない」
評価語ではない。
だが、否定でもない。
「記録する」
通話は、そこで切れた。
瀬戸は、受話器を置いた。
自分が、
評価されない存在ではなくなったことを、
はっきりと理解した。
同時に、
評価する側に完全に立ったわけでもない。
境界だ。
その位置が、
違和感なく、自分に馴染んでいた。
端末に、新しい表示が追加されている。
――判断保留適格者。
対象名:瀬戸遥斗。
評価でも、命令でもない。
だが、確かに"認識された"。
瀬戸は、端末を閉じる。
ロビーの照明は、いつも通り一定だった。
判断しなかった夜。
それは、
彼が初めて
「九条の隣に立てる可能性を得た夜」
だった。
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