第六話 評価されない評価者【解答】
いつも読んで頂きありがとうございます
端末の表示は更新されたまま、動かなかった。
――評価保留対象
対象名:瀬戸 遥斗。
瀬戸は、その画面を見つめていた。
評価されたわけではない。
処理対象になったわけでもない。
ただ、どちらにも分類されなかった。
「業務に戻れ」
九条の声は、いつもと同じだった。
距離も、温度も、変わらない。
瀬戸は一礼し、ロビーへと戻っていく。
背中を見送る視線に、意味は含まれていなかった。
九条は端末を操作し、判断ログを一行だけ追記する。
――観測継続。
それは評価ではない。
だが、判断が中断されていないことを示す記録だった。
その直後、内線が鳴った。
九条は即座に受話器を取る。
「仮配属評価表について、確認を」
落ち着いた声だった。
部署名も、名乗りもない。
だが、九条には誰の声か分かっていた。
「評価は提出していない」
「はい。記録上、そのようになっています」
一拍。
「規定により、当該新入社員は本配属審議には上げられません」
事実の確認だった。
責める調子ではない。
「本人の希望は確認済みです。ですが、評価が存在しない以上――」
声が、わずかに低くなる。
「仮配属期間終了と同時に、処理対象へ移行します」
九条は、端末から視線を外さない。
「処理理由は」
「評価不能、です」
即答だった。
「能力不足ではありません。勤務態度にも問題はない」
「それでも、か」
「はい。評価が成立しない以上、例外は認められません」
沈黙が落ちる。
九条は、数秒だけ受話器を持ったまま静止した。
考えている様子はない。
判断は、すでに終わっている。
「確認だが」
「はい」
「それは、“排除”ではないな」
「制度上は、“処理”です」
感情のない訂正だった。
「現時点では、不可だ」
数秒の空白。
「評価不能は、未清算と同義ではない」
受話器の向こうで、わずかな間が生じる。
「……確認します」
「以上だ」
九条は、それだけ言って通話を切った。
端末の画面には、依然として空白が残っている。
【評価者コメント:未提出】
九条は、その欄を埋めようとはしなかった。
評価しない。
記録しない。
だが、無視しているわけでもない。
評価が成立しない状態を、
そのまま維持する。
それが、この段階で許される、唯一の判断だった。
九条は端末を閉じ、ロビーを一瞥する。
瀬戸の姿は、もう見えない。
評価されない。
処理されない。
だが、観測されている。
それで十分だと、九条は判断していた。
――余白は、まだ機能している。
その事実だけが、
次の判断を先送りにする理由になる。
九条は歩き出す。
足音は、ロビーに残らなかった。
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