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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏
第二部

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20

 アイビーは涙をぬぐいながら、震える手でカップを持ち直した。ミルクティーの香りが、ほんの少しだけ彼女を落ち着かせたようだった。

「私、ガスキン地方警備騎士団にいたんです」

 私は黙って耳を傾けた。けれど、心の奥にはじわりと嫌な予感が広がっていく。


 ガスキン地方警備騎士団――その名前を聞くたび、騎士たちが苦い顔をしていたのを思い出す。

「あそこだけには配属されたくないよな」

「本当にな。王都騎士団にいられて幸運だった」

「レオン団長は正義感が強くて、筋の通らないことは絶対に許さない人だし、部下思いだよな」

 そう話していた騎士や兵士たちの声が、今も耳に残っている。


 そんな場所に、アイビーが配属されていた。それだけで、胸がざわついた。そして、彼女の口から続いた言葉が、その予感を裏切ることはなかった。


「実は私……そこで、横領の濡れ衣を着せられてしまいました」


 ──横領?

 真面目なアイビーが、そんなことをするはずがない。私は心の中で、即座に否定していた。


「もともと、あの地方の騎士団は、領主家との結びつきが強くて……それで、領主の息子たちが兵舎の物資を勝手に持ち出して、外に流して売りさばき、手に入れた金で豪遊していたんです」

 聞いた瞬間、怒りがこみ上げてくるのを感じた。けれど、私はそれを表に出さなかった。アイビーを怯えさせたくなかったし、今は何より、最後まできちんと話を聞いてあげたい。


 ──私利私欲のために、兵舎の物資を持ち出すなんて……

 それだけでも、本来なら重罪のはずよ。


「それを、ある日私が見つけてしまって……注意したんです。でも、逆に、私がやったことにされていました。武具の紛失も、食糧の消失も、全部……私のせいだって」


 ──悪事を咎めた者が、逆に罪を着せられるなんて……胸の奥に、怒りが煮えたぎる。なんという卑劣な真似を……! 


「証拠もねつ造されていました。私の署名じゃない記録まで作られて……チャス騎士団長も、領主家の言いなりで、何も聞いてくれないんです」


 拳を握る。爪が掌に食い込むほどに。私はただ、黙って、彼女の話に耳を傾け続けた。


「誰も、私の言葉を信じてくれない。私は……このまま処分されるのを待つしかないんです」


 ──そんな馬鹿な。

 正義が踏みにじられるのを、私は絶対に許せない。



 アイビーは顔を伏せ、震える声で言った。

「でも、どうしても……エルナ小隊長にだけは、聞いてほしかった。最後に、私が悪くないって……誰か一人にでも、わかってほしかったんです……!」


 私はそっとアイビーの肩に手を置いた。その小さな背中は、細かく震えていた。


 ──よく、ここまで一人で耐えたわね。

 胸が締めつけられる思いだった。

 まだ若いアイビーが孤独の中でどれほど必死に耐えてきたのだろう。


「わかったわ、アイビー」


 私は静かに、けれど強い決意をこめて答えた。


「私はあなたを信じる。だって、あなたは私の後輩だもの。私が信じなきゃ、誰が信じるの?」


 アイビーが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

 その瞳に、かすかな光が灯る。


 「ありがとうございます、エルナ小隊長……!」


 ──必ず、助ける。

 私にできるすべてを尽くして。


 後ろ盾がないというだけで、こんなにも簡単に踏みにじられてしまうなんて……

 こんな世界は、どう考えてもおかしい。


 だからこそ、私が止めなくちゃいけない。

 かつて騎士だった私が、レオン王都騎士団長の妻となり、グリーンウッド侯爵夫人となった意味。

 ようやく、その答えが見えてきた気がした。


 私の力で変えられるものがあるなら、変えていきたい。


 ──この世界を。







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