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二階のキッチンに立つと、すぐに小さな影が駆け寄ってきた。
「ママ、おてつだいする!」
ルカがきらきらした目で私を見上げている。まだ小さな手だが、最近はずいぶんいろいろなことができるようになった。
「じゃあ、このレタスをちぎってもらおうかな」
私は洗ったレタスを渡した。ルカは嬉しそうに「うんっ!」と答えて、真剣な顔で葉をちぎり始める。
その隣では、旦那様がプチトマトを洗いながら、優しく声をかけた。
「ルカ、トマトは転がりやすいから、ざるに入れてこうして洗うんだよ」
そっとルカの手にプチトマトを手渡す。ルカはそれを両手で大事そうに受け取ると、レタスを盛ったお皿に、ひとつずつ丁寧に並べていった。
「トマトさんのあか、かわいいね」
ルカが目を輝かせながら言うと、旦那様が笑みを浮かべた。
「ルカは赤い食べ物が好きだよな。苺とか、サクランボ、ラズベリー、リンゴ……」
「うん! みんなだいすき。あるともおなじだよ」
そんな二人のやりとりを見守りながら、私はふっと頬を緩めた。
やがて、サラダがきれいに盛りつけられ、私が焼き上げた肉料理も、香ばしい匂いを漂わせながら完成した。皆でテーブルを囲み、一緒に食べ始める。するとルカが、真っ先に顔を輝かせながら言った。
「ママのごはん、いつもとってもおいしいね!」
可愛らしい声とともに、ルカは勢いよく私に抱きついてくる。
私は驚きながらも、思わずルカをぎゅっと抱きしめ返した。
「ありがとう、ルカ。ママも、ルカがだいすきよ」
温かなぬくもりが胸いっぱいに広がっていく。
その様子を見ていた旦那様も、ふっと目を細めて微笑んだ。
「パパのことも、好きか?」
からかうように尋ねた声に、ルカはすぐさま元気よく答える。
「うん! パパ、かっこいい! ぼくのパパ、さいこう!」
その言葉に、旦那様は耳まで赤くしながらも、照れくさそうにルカの頭を撫でた。
「そうか……よし、パパはこれからも、ルカの自慢になれるよう頑張るぞ」
ふと足元に目をやると、アルトがごろんと寝転がり、私たちの様子を眺めていた。ふわふわの尻尾が、ぱたぱたと楽しそうに揺れている。
私が視線を合わせると、アルトは嬉しそうに立ち上がり、ぺたりと私の足元に顔をすり寄せてくる。
「アルトも、プチトマトが好きでしょう? はい、どうぞ」
小さいトマトを差し出す。アルトは一口でぱくりと食べると、満足そうに小さく鼻を鳴らした。そんな温かく穏やかな日々が、静かに流れていった。
ある日のこと、商店街の女将さんたちが、楽しそうにお祭りの話をしていた。
「エルナちゃん、屋台でも出したら? 自慢のスープを売ったら、みんな喜ぶよ」
「もうそれほど寒くありませんから、温かいスープよりも、クレープ屋さんを出そうと思っているんです。あとは、アイスティーとかフルーツジュースとか……飲み物も少し」
「へえ、いいねぇ。レオン団長は? 一緒にクレープを焼くのかい?」
「いいえ。ルカと一緒に金魚すくいのお店をやるんです。騎士団の皆さんが交代で手伝ってくださることになっていて」
「あぁ、いいねぇ。金魚すくいは子どもたちに大人気だからね。あの赤い金魚の、まぁ愛らしいことったらないよ!」
お祭りの日が近づくと、食堂も少しずつ準備で慌ただしくなっていった。厨房では、クレープの生地をまとめて仕込むため、朝からバターの香ばしい匂いが漂っている。
私は生地を焼くための鉄板を磨き、旦那様は屋台用の道具を外で点検している。
「パパ、すごいね! かなづちトントンしてる!」
ルカは隣で、小さな手をぱたぱた動かしながら応援している。そんな姿があまりにも微笑ましい。
ルカが描いたクレープの絵が、屋台の旗に飾られた。少し歪んだ線も、子どもらしい温かみがある。
「ルカ画伯の力作だな」
旦那様が感心したように言うと、ルカは胸を張る。
「ぼく、がんばったよ!」
──お祭りは、もうすぐだ。
※次回――
お祭りで、エルナ一家がほのぼのと楽しいひとときを過ごします。
ルカの可愛い金魚すくいや、クレープ屋さんの賑わいもぜひお楽しみに!
……ですが、その裏で、不埒な酔っ払いが出現。
元騎士であるエルナが、華麗に撃退してみせます!
そして物語は、思わぬ「新たな波乱」の兆しへ――




