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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏
第二部

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16

【ドネロン伯爵夫人視点】



「……こうなってしまった以上、離縁するしかない。これ以上、ドネロン伯爵家への悪影響は避けねばならない。君は実家のエックルズ男爵家に戻りなさい」


「う、嘘……実家には弟夫婦が住んでいて、仲も良くないのよ? 私、身を寄せる場所なんてどこにもないわ」


「それなら、なぜ、あんなことをした? 自分の立場をまるで理解していなかったのだな。――これ以上、君の愚行の犠牲になるつもりはない。私も、子どもたちも」

 

 一方的に離縁され、行き場を失った私は、仕方なくエックルズ男爵家へ戻った。けれど、すでに両親は他界し、家を継いでいた弟夫婦とは折り合いが悪かった。帰るなり、あからさまに嫌な顔をされる。


「自活する道を、早く見つけてください。うちは一代限りの男爵家でしたから、領地も資産もない。姉さんの面倒を見られる余裕なんて、ありません」

「お義姉さんが無一文で放り出されたのは、自業自得でしょう? しばらくはここにいてもいいですが、その後は出て行ってもらいます」

 弟夫婦が当然のように言ってくる。


「自活……? 伯爵夫人だった私が働くの? そんなの、無理よ……」

「だったら、修道院にでも入ればいいでしょう。――今回のやらかしを悔い『神に祈りながら静かに余生を過ごしたい』とでも言えば、修道院も受け入れてくれるはずです」


 修道院?

 この、私が……?


 ◆◇◆


 今、私は修道院にいる。ここしか生きていける場所がなかったから。


 朝五時の鐘が鳴る。

 まだ夜明け前の冷たい空気の中、私は粗末な寝台から起き上がった。

 戸惑いながら着替えを済ませ、無言で並ぶ修道女たちに倣い、礼拝堂へと向かう。

 かつて絹のシーツに包まれて目覚め、銀の盆に載せられた朝食をとっていた日々が、まるで幻のようだった。


 修道院の一日は、規則正しい祈りと労働で埋め尽くされていた。

 朝の祈りに始まり、掃除、洗濯、畑仕事。昼食も静寂の中、質素なパンとスープのみ。

 慣れない労働に手はひび割れ、粗末な服しか着ることができず、心までもが乾いていく。

 消灯時間になると、私は膝を抱え、誰にも気づかれないように小さな声で泣いた。


 なぜ、私はここにいるのか。

 自分の犯した罪の重さに、まだ私は気づかない。


 けれど、歳月は、私を徐々に変えていった。

 ここに来て三年目、ようやく私は気づきはじめたのだ。

 すべては、自らの愚かさが招いた結果だったのだと。

 噂話に踊らされ、嫉妬に目がくらみ、私は大切なものをすべて失った。

 エルナが平民から侯爵夫人になったからといって、なぜ、あれほど嫉妬する必要があったのだろう。


 夫にも、子どもたちにも、背を向けられて。

 ――その代償に、果たして見合う価値が、エルナを神殿に密告することにあったのだろうか。

 ただ、他人事として聞き流していればよかった。

 自分には関係のない別世界の話だと、そう思えばよかっただけなのに。

 なぜ、あのとき、それすらできなかったのか。


 後悔は、胸を締めつける。

 祈りの言葉も、まともに紡げない日々が続いた。


  それでも、季節は巡る。

 畑に咲く小さな花に心を留め、修道女同士でたまに交わす何気ない会話で、胸がじんわりと温かくなる瞬間が増えていった。

 神に赦しを請うことが、少しずつ、自分自身を赦す行為に変わっていくのも感じた。




 私はひとり、祈りの間に座っている。

 ふと、長女のことを思い出していた。

 私の頬を叩いて責めたカロラインは、今どこでなにをしているのだろう?

 まだ幼かった長男は、私が出て行く時には号泣していた。


 もう会えなくなった子どもたちのもとに、どうか幸せが降り注ぎますように――。

 心からそう願い、私は静かに目を閉じる。


 今は、ただ、祈るしかないのだから。

 そして、鐘の音が静かに心を満たしていく。

 私はその中で、深く、深く頭を垂れたのだった。


 

 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 ※コミカルなざまぁのおまけ、次にあります。



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