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【ドネロン伯爵夫人視点】
旦那様の様子がどうもおかしい。あの噂が広まってからというもの一緒に食事をしていても、私には一切言葉をかけず、まるで私がそこにいないかのように振る舞う。話しかけても、無反応でまるで空気のようだ。
サロンで共に寛ぐこともなくなり、屋敷の中で私と出くわすとわざと別の部屋に足を運んだり、仕事を理由にその場を去ったりする。
――明らかに避けられている……どうして?
一緒に外出することも、会話も、目を合わせることさえなくなった。これ以上我慢するのは、もう限界だった。
「一体、どういうつもりですか? 妻を無視して、何が楽しいんです!」
旦那様は冷たい視線を向け、深いため息をついた。
「君こそ、どういうつもりだ? あの噂のせいで、ドネロン伯爵家の事業に大きな痛手が迫ってきているんだ。ヴェルツエル公爵家からは今後の取引を断られ、その派閥に属する貴族たちからも距離を置かれた。レオン騎士団長を尊敬する騎士たちからは挨拶すらされなくなり、貴族たちの集まりに行っても、誰一人として話しかけてこない」
「え? 私だけがそうされているんじゃなかったんですか?」
旦那様は呆れたように私を睨みつけ、言った。
「夫婦なんだから君が家名に傷をつければ、当然私の仕事や付き合いにも影響が出るのは当たり前だろう? これほど愚かだとは思わなかった」
そして、私の心をもっと深くえぐったのは、長女の縁談が壊れた事件だった。
コルネリオ大神官の一件から数週間後、長女の婚約者であるレイフ・ブルーム伯爵が我が家に訪れた。
「要件はおわかりかと思いますが、この婚約を破棄させていただきたい」
長女、カロラインが泣き崩れる中、レイフ卿は冷徹な言葉を続けた。
「原因はドネロン伯爵夫人の神殿への密告です。ブルーム伯爵家としては、ヴェルツエル公爵家やグリーンウッド侯爵家を敵に回すわけにはいきません。レオン王都騎士団長は騎士や兵士たち、貴族たちにも人気があり、陛下からの信頼も厚い。庶民からも慕われている。その奥方に害を及ぼそうとした女性の娘を娶ることは、破滅を意味します」
「私のしたことと、娘とは無関係ですわ。なぜ、そんなことをおっしゃるのですか?」
「あなたがカロラインの母親である限り、この決断は覆りません。この世の中は忖度で動いているからです」
嘘……ここまで大事になるなんて? 娘の結婚まで壊れてしまうの?
呆然としたまま、私はその場に立ち尽くしていた。ふと、頬に鋭い痛みが走り、我に返る。
「お母様、一生あなたを許さないわ」
カロラインの声は震え、涙が頬を伝っていった。
まさか、自分の娘に頬をぶたれるなんて……信じられなかった。
「家同士が決めた結婚とはいえ、私はレイフ様をお慕いしていたのよ。それなのに……」
カロラインの眼差しには、深い絶望と私への嫌悪が滲んでいた。
その瞬間、次に飛び出したのは旦那様の冷徹な言葉だった。
「お前がしたことは、家だけでなく、カロラインの未来まで壊したんだ。お前のせいで、全てが台無しになった。こうなっては、残る道はひとつしかない」
「え? 嘘でしょう?」
旦那様が私に告げたその言葉は――




