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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏
第二部

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4

 すやすやと眠っていたアルトだったけれど、一刻ほど経つと、まるで何事もなかったようにぱちりと目を覚ました。でも、目を覚ましたその姿は――やっぱり、あのときのままだった。


 銀灰色だったふわふわの毛並みは光をはじくような純白に変わり、もふもふ度がアップしている。ひとまわり大きくなった身体には、透き通る羽がふわりと揺れていた。

 額には、(ほの)かに光る角が生えていて、その姿は神々しさと愛らしさが同居していた。どうやらこの変化は、一時(いっとき)のものではなく、アルト自身の「本来の姿」だったらしい。

 そんなアルトが、ルカと中庭でのんびりと過ごしていると、貴婦人たちが一斉に近づいてきて、口々に褒め称えた。


「まぁ、なんてお行儀のいい子ですこと! あんなに優雅な神獣、まるでおとぎ話の中から抜け出してきたみたい!」


「見てくださいませ。あの繊細な羽、もしかしたら飛べるのかしら? 素敵! また輝く角が愛らしいですわね」


 アルトはふわりと尻尾を揺らして得意げな顔をしていた。

 

「あるとはすごいんだよ! ぼくのいちばんのおともだち!」


 ルカも誇らしげに言うと、旦那様もにやりと笑った。


「そりゃあ自慢もしたくなるさ。守ってくれて、寝ぼけたルカに毛を引っ張られても、じっとしてる神獣なんて、そうはいない」

「ふふ、本当ね。アルトったら、皆に褒められてすっかり得意になっているわ」

 アルトはちらりとこちらを見て、ますます胸を張った。


「さすが神獣様……子供がお好きなのですわね」

 義姉のヴェルツェル公爵夫人が感心したように言うと、貴婦人たちも一様に頷き、なかにはありがたがって両手を合わせて拝んでいる方までいた。


 私は、よく頑張ったアルトへのご褒美に、苺をひと粒差し出す。大きな身体の神獣が、それを大事そうに、ちょっとずつかじって食べる姿が愛らしい。もちろん、ルカにも苺をあげる。ふたりして並んで苺を頬張っている様子は、この上なく微笑ましくて、まるで絵本の一場面のようだった。


 幸せそうな顔を見ているだけで、胸の奥がふんわりとあたたかくなる。自慢の家族よ。



 ◆◇◆



 そして、夜。


 食卓を囲む我が家の団らんの時間。今日もレオンとルカと、こうして並んで座れることが、私には何より嬉しい。


「ルカ、にんじんさんもピーマンさんも、ちゃんと食べてあげなきゃ」

「……うん……ちょっとだけなら……」


 そう言いながら、ルカはそっと手元のお皿をずらして、アルトの方にピーマンを放り投げた。見ていないふりをして、私は心の中で笑った。案の定、アルトは何も言わずに、ぱくりとピーマンを飲み込んだ。


 「……アルト、お前……共犯か?」


 旦那様がぼそりと呟いて、ふふっと笑いをこらえる。

 ルカも「アルトはやさしいんだよ」と得意げに言っていた。


「まったく、しょうがない子たちね」

 私は呆れたふりをしながら、つい笑みをこぼしてしまう。

 こんなふうに、笑いながら過ごせる日々が、いつまでも続いてくれたら――そう願わずにはいられなかった。


 食後にはルカとアルトがじゃれ合い、旦那様と私は湯気の立つお茶をゆっくりと口に運ぶ。とりとめのない会話をしながら、私は静かに、心からの幸福を噛みしめていた。


 

 ※レオン視点

 

 王都騎士団本部の執務室に、予期せぬ知らせが届いた。


「団長、至急の命です。陛下が、ただちにお越し願いたいと」


 伝令の言葉に、俺は眉をひそめた。


「理由は?」

「神殿より、何やら“報告”が届いたとか……詳しくはわかりません」

「神殿から……?」


 その言葉に、一瞬だけ眉が動いた。

 だが、心当たりはまるでない。


 神殿と何か揉めるような覚えなんて――いや、むしろここ数年、関わること自体がほとんどなかったはずだ。なぜ、自分が? 首をかしげるしかないまま、俺は王宮へと向かった。



 謁見の間に着くと、陛下から早速お言葉がかけられる。


「レオン、神殿からこんな文書が届いている」


 陛下が机上の羊皮紙を指さした。

 手に取って目を通した瞬間、息が詰まるのを感じた。


『王都騎士団長レオン殿が、神獣を私的に操り、騎士団の力をもって王都制圧を企てている――との密告が神殿に寄せられました。つきましては、当該事案についての事実確認のため、レオン殿を神殿へ召喚いたしたく、陛下のご裁可を賜りたく存じます』


 ……は?


 一瞬、誰のことを指しているのかわからなかった。

 しかし、どこをどう読んでも、俺のことだ。

 だが、何をどうしたらこんな話になる?

 冗談にもほどがある。

 まったくもって、荒唐無稽。


「誰がこんな……」


 俺が呟くと、陛下も苦笑を浮かべた。


「くだらない話だと余も思っている。だが、神殿からの正式な要請だ。無視はできぬ。誤解を解くためにも、近く説明に出向いてもらいたい」


「……了解しました」


 紙を握る手に、知らず力がこもった。書かれている内容は、あまりにも馬鹿げていて――笑えるどころか、腹が立つ。


「……陛下。これは、まったくの誤解です」


 そう前置きした上で、アルトに関する経緯をすべて説明した。

 かつて野営中に出会ったこと、妊娠中のエルナを守るために食堂へ住まわせたこと――。

 今では、ルカの親友で、家族として過ごしていること。

 そして、つい先日、ルカをかばって姿が変わったことで、ようやく神獣だったと知ったこと。


「私的に操っているなどという事実は、一切ありません。アルトはだいじな家族です」


 俺は、はっきりとそう言い切った。


「ふむ、余はレオンを信じておる。まぁ、気楽に説明をしてくればいい」


 陛下は穏やかにそう言ってくれたが。神殿の召喚に応じ、俺はコルネリオ大神官の前でアルトとの経緯をすべて説明した。だがその話を聞く大神官の顔は、最初から最後まで、不満そうに歪んだままだった。


「……なるほど。王都制圧というのは誤解だったのですね。ですが――アルト様が“神獣”と判明した以上、その所有権は神殿にあると認識しております。そして、まだいくつか……話し合わねばならぬことがございます」


 次々と飛び出す、あり得ない“主張”。俺は思わず拳を握りしめた。


 ――これはもう、俺への宣戦布告だ。






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