38 結婚はしたけれど……これからが人生の始まり
そして、迎えた結婚式当日。
風がそっと中庭の花々を撫で、噴水の水音が陽射しにきらめいている。咲き誇る花々の香りが、祝福の空気に彩りを添えていた。
新しく完成した中庭には、木陰をつくるように設けられたアーチや、真っ白な椅子がずらりと並べられ、商店街の人たちと貴族たちがそれぞれの席に腰を下ろしている。普段は交わらないはずの立場の違う人々が、ひとつの空間で笑い合っている光景は、どこか不思議で、でもとてもあたたかかった。
いつもは冷静沈着なレオン団長は、今日はほんの少し、緊張しているように見えた。
黒の礼装を纏った姿は、普段よりもずっと「貴族らしく」見えて、思わず見惚れてしまう。
私は、女将さんたちがあれこれ言いながら選んでくれた生地で仕立てられたドレスに身を包み、ゆっくりと中庭を歩いていく。身にまとったのは、柔らかな純白のドレス。胸元から裾にかけて繊細なレースがあしらわれ、陽の光を受けてふわりと浮かび上がるその模様は、まるで祝福の花が咲いているようだった。
「ママ、きれぇー」
ルカの小さな声が聞こえた。今日は特別に、白いシャツに蝶ネクタイ姿だ。アルトはまるで護衛のように、そのそばをぴたりと歩いている。
レオン団長が私の手を取る。その温もりが、過去の迷いや痛みを、そっと溶かしてくれるようだった。
誓いの言葉を交わした瞬間、中庭に集まった人々が一斉に拍手を送った。その中には、あの国王陛下の姿もあった。
「ふむ。この中庭……落ち着ける空間だな。妃を連れて、また来るとしよう」
貴族たちがざわめき、女将さんたちがそわそわと顔を見合わせていた。まさか、陛下がここを気に入ってくださるなんて。
庶民の食堂と、貴族のサロン。 違う世界が、食堂の中庭で交わることができた奇跡に、私は心から感謝した。
新しい人生は、まだ始まったばかり。
だけど、そのスタートがこんなにもにぎやかで、愛おしいものになるなんて誰が予想できただろう。
まずは、新婚初夜にアルトがベッドのど真ん中を占領し、さらにはルカまで「パパとねるー!」と潜り込んできた話から始めようかしら?
そして翌朝には、侯爵夫人となった私に挨拶をと、貴婦人たちがこぞって押し寄せてきたことも。




