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私は一度門を出るふりをして、駐屯地の外れにある村へと足を向けた。
アレグランには「すぐに発つ」と言ったけれど、どうしてもこのまま帰る気にはなれなかったのだ。
村には小さな宿が一軒だけあり、私はそこで一泊することにした。食堂も併設されていて、夕食時には地元の人々でそれなりに賑わっていた。
私は一人、窓際の席に座って温かい煮込み料理を口に運んでいると、不意に声をかけられた。
「……あの、アレグランさんの奥さんですよね?」
顔を上げると、昼間、駐屯地でアレグランのもとまで案内してくれた兵士だった。まだ顔に幼さが残る、真面目そうな印象の青年だ。
「えぇ、あなたは駐屯地を案内してくれた人よね?」
「はい。……あの、急にこんなことを言って申し訳ないんですけど、ずっと迷っていて。でも、さっきからおひとりでいらっしゃるように見えたので……今しか言う機会がないかと思って」
彼は腰をかがめながら、少し声を潜めて尋ねた。
「……アレグランさんのこと、何か変だと感じているんじゃないですか?」
「えぇ。その通りよ」
私のスプーンを持つ手が震えた。
「やっぱり……」
彼はため息をついたあと、周囲に気を配ってから静かに続けた。
「本来なら、奥さんにこんなことを言うべきじゃないと思ってました。……でも、どうしても黙っていられなくて。
アレグランさん、最近よく村の外れの一軒家に通ってるんです。そこに住んでるのは、未亡人と幼い男の子で――あっ、その子はアレグランさんの子じゃないってのは確かです。そこは誤解しないでください。
でも、あの……なんというか……“家族みたいに”過ごしてるって噂で……」
「……幼い男の子?」
「はい。まだ五つか六つくらいの男の子です。……アレグランさんは、その子を実の息子のようにかわいがっていて。今では村の人たちも、あの家の三人を“家族”として見ているんです」
「……そんな……ありえない」
「駐屯地の兵士たちは、みんな気づいてますよ。……そして、怒ってるんです。
奥さんがどうして騎士を辞めることになったのか、その理由を、誰もが知っていますから。
あの出来事は、今でも騎士や兵士の間で語り継がれてます。あなたが、命を懸けてアレグランさんを守ったって――」
彼の深い同情を込めた視線が、私の頬の傷に向けられたのだった。




