35 テオドラの断罪-2
こんな、こんな屈辱があるものですか。
私は、ミランディス伯爵家の令嬢。物心ついたときから使用人に囲まれ、チヤホヤされるのが当たり前だった。誰かに頭を下げたことなんて、一度たりともなかったのに――。
それなのに、今の私は王都広場の真ん中で、石畳に膝をつき、額までもその冷たい石の上に押しつけている。首には、罪状を書かれた札。
「幼児誘拐」――そんなおぞましい文字が、私の首からぶらさがっているのよ。
その背後には、王宮の衛兵たちが無言で控えていた。私の前には、憎きあの女――エルナ。ただの平民のくせに。元騎士だったとしても、たかが平民でしょう?
なのに、どうして私が頭を下げなくてはならないの!?
王命だからって、何をしても許されるの? ここにいる民衆たちは、皆楽しげに私を見ている。娯楽のつもりなのかしら。
エルナは言った。
「ルカは体調が優れないので連れてきませんでした。情操教育にもよくありませんから」
……ふん、笑わせないで。教育? あんたの子供なんかに、教育なんているものですか。
でも、私は、やらなければならなかった。この辱めに耐えて、頭を下げ、謝罪しなければならない。王命だから。
「……お詫び、申し上げます」
かすれた声が、自分の口から漏れた。情けない。こんなこと、さっさと終わってほしい。
けれど、謝ったからといって、何も終わらなかった。民衆の視線はどこまでも冷たく、罵声は容赦なく飛んでくる。
「これが、幼子を誘拐した女か! 信じられない!」
「貴族様だろうがなんだろうが、罪は罪だ!」
罵声の中に、何かが飛んできた。
――べちゃっ。
ぬるりとした感触が頬に広がる。生卵だった。
「くらえ! これは腐ったトマトだ!」
続いて何やら柔らかいものが、背中にぶつかる。どうやら、言葉のとおり、今度は腐ったトマトらしい。ドレスの背が冷たく濡れた。
ああ、なんでこんな目に……。
なんで、私が、こんなにも辱めを受けなければならないの?
涙が止まらなかった。 自分でもわかるほど、肩が震えていた。笑ってごまかそうとした口元は引きつり、震えが止まらない。
泣くなんて――貴族として、こんなみっともない姿、誰にも見せたくなかったのに。
でも、もう耐えられなかった。
頬を伝う涙はあとからあとから溢れてきて、止めようとしても止められない。
この日のことは、決して忘れられない。
屈辱と恥辱と、憎しみと痛みと、何もかもが混ざり合って、心の奥に焼き付いたのだった。




