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考えれば考えるほど悩ましくて、言葉がうまく出てこない。
それでも、返事だけはしなければいけない。
レオン団長の真剣な気持ちに、黙ったままでいることだけは、できなかった。
私は、そっと目を伏せたまま、小さく息を吐く。
「……お気持ちは、とてもありがたいです。レオン団長のような立派な方に、そう言っていただけて……本当に光栄だと思っています。でも……」
声にするたび、胸の奥が軋んだ。
自分の口から出る言葉が、ひどく冷たく聞こえて、泣きたくなった。
レオン団長の気配が伝わってくる。
私の言葉を一つも取りこぼさぬように、どんな顔で聞いているのか――怖くて、顔が上げられなかった。
もしも、今、彼と目が合ってしまったら、つい本音を言ってしまいそう。
『はい、私も家族になりたいです!』
そう言えたら、どんなにいいだろう……でも、なにも考えずにそう答えるわけにはいかない。
レオン団長の重荷になりたくない。
ルカもまだ生まれたばかり。
私はもう、自分の幸せだけを追いかけられる立場ではない――だって、ルカのお母さんなんだもの。
「私とレオン団長では、あまりにも……身分が違いすぎます。それに、今の私はルカのことを第一に考えてあげたいんです」
そこで言葉が途切れた。
胸の奥で何かが疼いて、指先がほんのわずかに震える。
「お返事は……しばらく、待ってもらえますか?」
レオン団長は何も言わなかった。
その沈黙が、かえって胸を締めつける。
――本当は、大好きなんです。あの言葉が、どれだけ嬉しかったか。これまで生きてきて、一番幸せだった瞬間でした。
けれど、それを口にすることはできなかった。
それに、レオン団長がこうしてそばにいてくれるだけで――もう、十分すぎるほど幸せだとも思っていた。
支えてくれる人たちがいる。
商店街の女将さんたち。ユリルとトミー。そして、いつも隣にいてくれるアルト。
そして何より、レオン団長も……。
だから私は、この小さな日常を、しっかり守っていきたい。
欲張らずに、今ある幸せを、大切に抱きしめて。
そして、レオン団長は……




