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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏


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3/32

 季節の風が変わり始めた頃だった。

 夜は肌寒く、お客様たちの服装も少しずつ厚手に変わってきていた。

 私は店の帳簿を閉じると、小さく息をついた。


 防寒具と薬草を届けに行くだけ。

 決して問い詰めに行くわけじゃない。

 ただ――少しだけ、心配になっただけ。


 店の扉に「数日休業いたします」と貼り紙を残し、私は早朝に荷馬車を出した。

 目的地は、アレグランが常駐しているという国境の駐屯地。

 戦争が終わった今も、一部の警備は続けられており、兵の入れ替えがあるとはいえ、それはほとんど形だけのものだった。


 ――それなのに、なぜ彼が家に戻ってくるのは月に一度あるかないかなのだろう?

 いろいろな疑念を、私は何度も打ち消してきた。

 でも、どうしてもあの兵士たちの言葉が気になってしまう。


 ◆◇◆


 道中、草原の上を風が渡る。

 薬草を包んだ布から、土と陽だまりを混ぜたような、穏やかな香りが立ちのぼった。

 あたたかい煎じ薬はとてもよく効く。肩の傷が痛んだ日には、私もこれに助けられた。


 彼のために、と思えるうちは、まだ私は立っていられる。

 私は彼を愛してる。それだけは、疑いようもなく確かだった。


 駐屯地に近づくと、風景がわずかに変わっていった。

 石積みの低い柵、簡素な見張り塔、煙の上がる調理場――

 村と城塞の中間のような場所。けれど、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。


 門の前で名を名乗ると、若い兵士が「ああ、アレグランさんの奥さんですね」と笑顔で通してくれた。


 案内された広場の先、井戸のそばで、アレグランは兵士と話していた。

 私の姿に気づくと、少し驚いたような顔をして、すぐに笑みを作る。


「……エルナ? どうしてここに?」


「防寒具と薬草を届けに来たの。季節の変わり目でしょう? 体を冷やしたらいけないわ」

 私は持っていた包みを差し出し、アレグランの手にそっと渡す。

 彼は受け取りながら、どこか気まずそうに視線を逸らした。


「……ありがとう。でも、わざわざ来なくてもよかったのに」


「たまには顔を見たいと思ったの。奥さんらしいこと、してみたくなったのよ」


 自分で言った言葉に、胸がきゅっと痛んだ。

 アレグランは苦笑し、頷くだけだった。


「……すまない、今少し立て込んでいて。隊の報告書を仕上げないといけなくて。明日は国境沿いの見回りで、少し遠出になるし、悪いがエルナに構っている時間がない」


「あら、そうなのね。じゃあ邪魔しないわ。もう用事は済んだから、馬車の準備が整ったらすぐに発つわ」


「……ああ、気をつけて帰ってくれ」


 アレグランは、私を見送るでもなく、書類の束を手に建物の中へと戻っていった。


 私はその背を見つめながら、胸の奥がざわついていた。

「気をつけて帰ってくれ」と言いながら、目は笑っていなかった。

 手元に視線を落とすその指が、わずかに震えていたように見えた。


 ……あれは、なにかを隠している目よ。


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