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市場からの帰り道、思いがけず小雨が降り出した。
私たちは、濡れないうちにと足を早める。
今日は食堂の定休日で、食材の買い出しに市場まで足を運んでいた。
ルカは留守のあいだ、ユリルとアルトが見てくれている。
かごの中には、葉野菜や果物、香辛料、調理用の油などが詰め込まれていた。持ちきれなくなった分を、レオン団長が黙って引き受けてくれていた。かなり重たいはずなのに、何でもないことのように片腕でかごを抱えたまま歩く彼に、私は何度も助けられている。
そんな帰り道で降られたのだ。
私達は、とっさに視線を巡らせ、すぐそばにあった小さな教会の屋根を見つけて駆け込んだ。
玄関の庇の下に立つだけでも少し雨はしのげたけれど、当分やみそうにない。
「レオン団長、中……入りましょうか?」
「……ああ。しばらくの間、雨宿りさせてもらおう」
中は静かで、誰の姿もない。
祭壇のあたりまで目を向けても、人の気配は感じられなかった。
「……牧師は出かけているようだな」
レオン団長が、呟いた。
空気は少し冷たく、外で降る雨の音が、どこか遠くから届くように聞こえていた。外の喧騒とは打って変わって、教会の中は静けさに包まれている。
外はまだ小雨が降り続いていた。けれどそのとき、雲の切れ間から差し込んだ一筋の光が、ステンドグラスを透かして教会の中に色彩を落とす。七色に輝く神秘的な光が、教会の静けさを一層際立たせていた。自然と、厳かな気持ちになる。
私はそっと礼拝席に腰を下ろす。その隣に、レオン団長も静かに座った。
しばらく、何も言葉がなかった。雨のしずくが降り注ぐ音だけが、教会の中に反響していた。
レオン団長がふと私の方を向く。その視線の先には、ステンドグラスを透かして私の肩越しに降り注ぐ光。彼の瞳がその光を追うように動き、やがて私の目を見つめる。
「……綺麗だな」
その一言が、ステンドグラスの色彩を指しているのか、それとも私自身に向けられたものなのか、判断がつかない。胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じながら、私は視線をそらすことができなかった。
「なぁ、エルナ」
声が、少しだけ震えていた。
「俺は……ずっと、お前に言いたかったことがあるんだ」
その言葉に、私は思わず彼の横顔を見た。
真剣な表情。少しだけ濡れた髪。拳を膝の上で固く握っている。
「お前と……これから先も、ずっと一緒にいたい。もし、許されるなら――家族になってほしい」
泣きたくなるほど嬉しかった。けれど、同時に心の痛みが走る。私の身分、立場……けっしてレオン団長に相応しいものではない。団長に迷惑がかかるのも、彼の人生の汚点になるのも、私は望まない。それでも、私は団長が大好きで……どうしたらいいの?
目の前には、誰もいない祭壇。
神様が、ただ黙って私たちを見つめている気がした。




