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※エルナ視点に戻っています。
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アレグランの声が耳に届くたび、呼吸が浅くなっていくのがわかった。
「冷静に、気にしないで」と頭では繰り返しているのに、心と身体は正直だ。
彼は口先だけの綺麗事を並べていた。
――今度こそ幸せにする? 大切にして尽くす? 生涯かけて必ず?
もう、そんな段階じゃない。なぜ、まだそれがわからないの?
――機会をくれ? 心を入れ替える?
たとえそれが本心だったとしても、私はもう、アレグランとは生きていきたくない。
「女として見られない」――かつてそう言われた瞬間のことが、今も胸にこびりついて離れない。
まるで、その言葉にすべてを否定されたように感じた。
女である前に、人としての尊厳も、騎士としての誇りすらも。
――なぜ、あんな言葉を平気で吐いたくせに、まだ私に信じてもらえると思ったのだろう?
アレグランって、こんなに話が通じない人だった?
「……うっ」
不意に、下腹部を鋭い痛みが貫いた。
思わず椅子の上で身を丸める。冷や汗が浮かび、背中に震えが走る。
まわりの視線を感じたけれど、見返す余裕なんてない。
――お願い。アレグラン、もう……黙って。
息がうまく吸えない。
あなたの顔を見るたびに、胸が苦しくなる。
かつては心から愛した人――でも今は、顔を直視することすら辛い。
それでも、あなたは子どもの父親。
だから……これ以上、あなたを憎ませないで。
どうか、これ以上、私の心を壊さないで。
私はもう、あなたを愛してはいない。
あなたと生きていくことも、もう決してない。
けれど、これ以上“何か”を言われれば――きっと私は、完全に壊れてしまう。
傷を負ったことを後悔しているわけじゃない。
でも、その傷を汚れのように扱われたことは……絶対に、許せない。
もういい。
もう、これ以上、私に関わらないで。
そのとき。
ふと、背中に温かな大きな手がそっと添えられた。
「ゆっくり息を吸って、静かに吐いてごらん。……そう。大丈夫だ、エルナ」
優しい声が耳元で囁かれた。
目を向けると、そこにはレオン団長がいた。
「いいか? エルナ。お腹の子にも、おまえにも、あんな連中の好き勝手はさせん。
……俺は王都騎士団長レオン、そしてグリーンウッド侯爵様だ。わかるか?
アレグランやセルデン男爵なんかの、何倍も偉いんだぞ? あんな奴ら、俺が蹴散らしてやるさ」
あまりにも子どもじみた口ぶりに、思わず笑みがこぼれた。
──わざと、だ。
レオン団長は、張りつめた空気の中で私の心を和らげようとして、あえてあんな言い方をしてくれたのだ。
その優しさに、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
やがて場内が静まり返り、
その静寂を切り裂くように、国王陛下の声が響いた。
「アレグランの離縁無効の申し立ては却下とする! そして今後は平民として生きよ。ただし、仕事までは奪わぬ。そのまま駐屯地で雑用係として働くがよい。だが、これよりエルナへの接近は禁ずる。二度と近づくことも、声をかけることも許さぬ!」
裁定が下された。
アレグランは、茫然とした顔でこちらを見ていた。
その目に映っていたのは、絶望の色だった。




