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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏


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19

※エルナ視点に戻っています。


。:+* ゜ ゜゜ *+:。。:+* ゜ ゜゜ *+:。



 アレグランの声が耳に届くたび、呼吸が浅くなっていくのがわかった。


「冷静に、気にしないで」と頭では繰り返しているのに、心と身体は正直だ。


 彼は口先だけの綺麗事を並べていた。

 ――今度こそ幸せにする? 大切にして尽くす? 生涯かけて必ず? 

 もう、そんな段階じゃない。なぜ、まだそれがわからないの? 


 ――機会をくれ? 心を入れ替える? 

 たとえそれが本心だったとしても、私はもう、アレグランとは生きていきたくない。


「女として見られない」――かつてそう言われた瞬間のことが、今も胸にこびりついて離れない。

 まるで、その言葉にすべてを否定されたように感じた。

 女である前に、人としての尊厳も、騎士としての誇りすらも。


 ――なぜ、あんな言葉を平気で吐いたくせに、まだ私に信じてもらえると思ったのだろう? 


 アレグランって、こんなに話が通じない人だった?


「……うっ」


 不意に、下腹部を鋭い痛みが貫いた。

 思わず椅子の上で身を丸める。冷や汗が浮かび、背中に震えが走る。

 まわりの視線を感じたけれど、見返す余裕なんてない。


 ――お願い。アレグラン、もう……黙って。


 息がうまく吸えない。

 あなたの顔を見るたびに、胸が苦しくなる。

 かつては心から愛した人――でも今は、顔を直視することすら辛い。


 それでも、あなたは子どもの父親。

 だから……これ以上、あなたを憎ませないで。

 どうか、これ以上、私の心を壊さないで。


 私はもう、あなたを愛してはいない。

 あなたと生きていくことも、もう決してない。

 けれど、これ以上“何か”を言われれば――きっと私は、完全に壊れてしまう。


 傷を負ったことを後悔しているわけじゃない。

 でも、その傷を汚れのように扱われたことは……絶対に、許せない。


 もういい。

 もう、これ以上、私に関わらないで。


 そのとき。

 ふと、背中に温かな大きな手がそっと添えられた。


「ゆっくり息を吸って、静かに吐いてごらん。……そう。大丈夫だ、エルナ」


 優しい声が耳元で囁かれた。

 目を向けると、そこにはレオン団長がいた。


「いいか? エルナ。お腹の子にも、おまえにも、あんな連中の好き勝手はさせん。

 ……俺は王都騎士団長レオン、そしてグリーンウッド侯爵様だ。わかるか?

 アレグランやセルデン男爵なんかの、何倍も偉いんだぞ? あんな奴ら、俺が蹴散らしてやるさ」


 あまりにも子どもじみた口ぶりに、思わず笑みがこぼれた。

 ──わざと、だ。

 レオン団長は、張りつめた空気の中で私の心を和らげようとして、あえてあんな言い方をしてくれたのだ。

 その優しさに、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。


 やがて場内が静まり返り、

 その静寂を切り裂くように、国王陛下の声が響いた。


「アレグランの離縁無効の申し立ては却下とする! そして今後は平民として生きよ。ただし、仕事までは奪わぬ。そのまま駐屯地で雑用係として働くがよい。だが、これよりエルナへの接近は禁ずる。二度と近づくことも、声をかけることも許さぬ!」


 裁定が下された。


 アレグランは、茫然とした顔でこちらを見ていた。

 その目に映っていたのは、絶望の色だった。

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