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夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏


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17 アレグラン視点

 王の視線が、まるで槍のように俺を射抜く。


「……貴様、自分の立場がわかっているのか? 貴様は妻に見限られたのだ。エルナには、新しい人生を歩む権利がある。心を尽くしても報われなかった結婚から、ようやく解放されたのだ。今さら、また貴様の身勝手な檻に閉じ込める気か?」


「陛下……今度こそ、幸せにします。大事にして、尽くします。生涯かけてでも……必ず――」


「未亡人はどうする? その子供は、貴様に懐いているのだろう?」


「っ……!」


「エルナよ。当然と思うが、アレグランと寄りを戻す気はないな?」


「はいっ。ございません!」


 王の言葉に、エルナがかぶせるように叫んだ。その声には、迷いなど一切なかった。


 ――なんでだよ。あんなに俺のことが好きで、尽くしてくれたじゃないか。俺だって、これからは大事にするって言ってるのに。なんで……そんな、まるで汚物でも見るような目で俺を見るんだよ?


「エルナ、頼む、機会をくれ。心を入れ替えるよ。誓う。エルナと……俺たちの子供を、一緒に育てていこう。結婚してから2年、授かれなかったけど……これからは王都で、そばにいる。いつかきっと、子供も授かるさ」


「《《この子》》には、あなたのような父親はいらない!」


「……な、に……?」


 俺は言葉を失った。


 視線の先――エルナが、そっとお腹に手を添えていた。

 そして、今の一言を悔いたかのように、顔が見る見るうちに青ざめていく。


 まさか……。


 ――くくっ……神様、ありがとう。そうか、エルナのお腹に子供が? だったら、復縁の理由としては最高じゃないか。これ以上のタイミングはない。


「エルナ……なぜ黙ってたんだ? 俺の子だろ? 一緒に育てよう。これからは、ちゃんとした父親になる。暖かい家庭を築こう。大丈夫だ。俺が、お前と子供を守る」


 ――これで俺の印象もグッと上がる。赤子がいるとなれば、王も傍聴席の貴族たちも、今度は俺の味方をしてくれる――そう思った。


「なんと……エルナさん、ご懐妊とは、おめでたいことですな。ならばアレグランと、今一度やり直してはどうか。私が責任を持って、弟が良き父親となれるよう導こう。子供から父親を奪うことなどあってはならない。君自身、親を持たずに育った苦労を、一番よく知っているはずだろう?」


 ――ガレット兄上……俺を見捨てたわけじゃなかったのか! すばらしい援護射撃だ。


「私が責任を持って育てます。住む家もあります。食堂も繁盛しています。商店街の皆さんも、かつての部下たちも、助けてくれています」


「聞いてくれ。私と妻の間には娘しかいない。もしエルナさんが男の子を生んだのなら、将来、セルデン男爵家を継がせてもいい。どうだ? 子供に輝かしい未来を与えてやろう」


 ――さすが兄上! これでエルナと元サヤに戻れば、さっき決まった金貨5,000枚の支払いも帳消しになる。あれだけ俺を見下(みくだ)していた高位貴族夫人たちも、ほんの少し戸惑っている……これは、いける!


 しかし、そうは簡単にいかなかった。


「いりません!」


 エルナの声が、法廷内を鋭く切り裂いた。


「子供に父親がいたほうがいいことは、もちろん分かっています。でもそれは、“本当に私と子供を大切にしてくれる人”でなければ意味がありません!」


「だから、これから俺は変わるって言ってるだろう? いい加減、信じてくれよ」


「この子の幸せは、私が守ります。セルデン男爵家のために生まれてくるんじゃない。この子には、この子の人生があります」


「セルデン男爵家を継ぐことは名誉なことだ。子供にとって、決して悪い話ではないだろう?」


「貴族になるより大事なことがあります。愛のある家庭で育つことです」


 エルナは涙を浮かべたまま、隣にいたレオン団長を見上げた。そして、震える声で、静かに言ったんだ。


「この人は、私の顔の傷を見て、こう言ったんです。“……その顔じゃな……悪いけど、女としては……ちょっとな”と」


 場が静まり返った。

 誰もが息をのむ中、エルナは続ける。


「私は、この傷を後悔していません。人を救った騎士として、誇らしく思っています。これは、私の勲章(くんしょう)です。

 でも――アレグランは、それを“汚らわしいもの”のように見た。あの目だけは、忘れられません」


 傍聴席(ぼうちょうせき)に、どよめきが走った。

 高位貴族たちが顔を見合わせ、唇を寄せ合うようにして囁き合っている。

 何を言っているのかまでは聞こえない。――だが、その視線は明らかだった。

 俺を責めている。蔑んでいる。



 そして、レオン団長の視線が、焼けつくように突き刺さった。


 あの目――騎士として長く生きてきた俺には、よくわかる。

 ここで下手(へた)に弁解すれば、命はない。そう告げている眼差しだった。


 だから、俺は――

 ただ、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 そして、王は……


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