表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!  作者: 青空一夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

14 アレグラン視点 

※アレグラン視点



 裁判の日時は、王室法廷の書記官によって正式に通達され、関係者に伝えられる。俺の案件は10日後ということだった。


 さて裁判当日、俺は王宮の南端、ひときわ厳かな空気を(まと)った石造りの建物に向かっていた。もちろん、ガレット兄上も同行してくれた。

 白い大理石の外壁には王家の紋章が掲げられ、高くそびえる尖塔(せんとう)と荘厳なアーチ状の門扉(もんぴ)が、その場所の特別さを物語っていた。

 

 ここが王室法廷――王の名においてのみ開かれる、貴族と騎士を裁く絶対の場なのだ。


 重厚な扉を開けると、奥行きのある石造りの大広間が広がっていた。両脇に並ぶ貴族席は赤いビロードで覆われ、中央には玉座と裁定席が設けられている。俺は原告席にガレット兄上と座った。


 威厳に満ちた王の声が、玉座の上から静寂を切り裂いた。

「この場において、王の名のもと、真実と法に従い裁きを下す。虚偽をもって語る者は、我が名を汚すと心得よ。王室法廷を開廷する!」


 裁判官が合図を送ると、書記官が厳かに訴状を読み上げた。

「原告、アレグラン・セルデン卿。被告、元妻エルナに対し、損害賠償を請求する。離婚成立直後、被告は原告の所有物である懐中時計を故意に屋外へ投棄、破損させた。当該(とうがい)時計は原告が自費購入したもので、金貨500枚に相当する。原告はこれに対し、金銭による賠償を求める」


 ざわつく法廷の中、エルナの隣に立つ男が一歩前へ出た。王都騎士団長・レオンだ。その無言の威圧が、場の空気を引き締める。

 裁判官が視線を向け、静かに問いかけた。

「代理人として発言をなさいますか?」

 レオン団長は無言で頷き、真正面をまっすぐ見据えた。そして、低くよく通る声で、静かに口を開いた。


「被告エルナに代わり、反訴を申し立てる。

 まず第一に、戦場において被告が原告を(かば)い負った顔と肩の傷に対し、これまで一切の補償も行われていない。

 第二に、婚姻関係が継続していた2年のうち離婚前の半年間、原告は家計に対して1銅貨たりとも生活費を支払っていない。

 第三に、浮気を原因とした離婚であるにもかかわらず、慰謝料の支払いは未だに果たされていない。

 以上三点をもって、反訴として慰謝料および補償金の総額――金貨5,000枚の支払いを求める」

 さらにレオン団長は、俺を鋭く睨みつけながら続けた。

「ちなみに、懐中時計を投げたのは浮気を知り離婚した直後のこと。家はエルナの名義であり、不貞夫の荷物を外に出しただけです」


 廷吏が急ぎ筆を走らせ、裁判官は表情を動かさずに静かに頷いたが、次の瞬間、傍聴席に低く、しかし確かなざわめきが広がった。

「命を助けてもらっておきながら、返す言葉が“時計を弁償しろ”とは……。しかも、浮気を知って動揺した末の行動でしょう?……さて、いったい誰が悪いのかしらね?」

 ヴェルツエル公爵夫人が扇子を口元に当て、呆れたように吐き捨てる。

 ――あの人は、レオン団長の義姉だ。

 出世を狙っていた俺は、王都の高位貴族の顔と名前をそれなりに頭に入れていた。

 顔を見ただけで誰なのか察せる程度には、情報を仕込んできたつもりだ。


「しかも、妻は傷を負って騎士を辞しているのだろう? それで半年間、生活費も入れず……騎士の名が泣くな。どうせ浮いた金で分不相応な懐中時計を買ったのだろう」

 隣にいたヴェルツエル公爵が、鼻を鳴らして首を横に振った。彼は、レオン団長の実兄だ。


 ――はは、やっぱり身内か。そりゃレオン団長に都合のいいことしか言わないよな。

 ……そういうの、フェアじゃないだろ。


「浮気の慰謝料すら払わず、自分を庇って顔に傷を残した女性に、懐中時計の金額を請求? それがまともな男のすることかしら? 命がけで自分を守った女性によくも……」

 ターンブル侯爵夫人は、眉をひそめながら言葉を漏らした。


 その場にいた者の誰もが、これは“ただの夫婦の揉め事”ではないと、ひそひそとささやき合っている。


「浮気と言っても、これは……普通の浮気ではないな」

 ブライトン伯爵がぽつりと呟くと、その言葉に周囲が無言で頷いた。


 やがて、視線が俺に集中しはじめる。冷たく、突き刺すような眼差しに、息が詰まりそうになった。

 まるで、こう告げているかのようだった――お前に、騎士を名乗る資格などない、と。


 ……気づけば、俺は口を開いていた。


「おかしいと思います。顔や肩の傷の慰謝料は、結婚してやったのですからそれで充分だと思います。お金についても、たまたま半年ほど忘れていただけで、それ以前はちゃんと渡しておりました。それから……遠征中の騎士に現地妻がいるのは、珍しくないです」


 

 


。:+* ゜ ゜゜ *+:。。:+* ゜ ゜゜ *+:。


⚖この異世界の王室法廷の仕組み。


※裁判官(廷臣あるいは法務卿):審理を進行し、証言や証拠を整理・確認する。最終的な意見(「このような判決が妥当であると存じます」など)を王に申し上げる役目。


※王:王国最高の裁定者として、裁判官の意見を聞いた上で最終的な判決を下す。


※1金貨:1万円

※1銅貨:1円

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ