13 アレグラン視点・エルナ視点
※途中、視点変わります。
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※アレグラン視点
アレグランへ
寒さが一段と厳しくなる折、おまえが健やかに過ごしていることを願っている。最近、おまえが騎士の称号を持ちながらも、駐屯地で雑用を命じられているとの噂を耳にし、驚きと共に心配している。おまえの才覚とこれまでの功績を考えれば、信じがたい話だ。離縁した話も聞いているが、それについてもいろいろと噂があるようだ。
私はこの件を案じており、ぜひ直接事情を聞かせてほしい。都合の良い時に屋敷まで足を運んでくれないか。おまえの近況を知り、今後について共に考えたいと思っている。
来訪を心より待っている。
兄、ガレット・セルデン男爵より
ある日、家督を継いだガレット兄上から、こんな手紙が届いた。
――ガレット兄上。そうだ、ガレット兄上に相談すれば良かった。思えば、ガレット兄上とは幼い頃から仲が良かった。俺のことを気にかけてくれるなんて、やっぱり兄弟って素晴らしいよな。
レオン団長から、俺は王都への立ち入りとエルナへの接近を禁止されていた。しかし、それは団長の権限による命令に過ぎない。実家からの呼び出しを受け、王都管理局にセルデン男爵家への訪問許可を申請したところ、すんなりと認められた。家督は継いでいないものの、俺はセルデン男爵家の三男として貴族籍に名を連ねているからだ。
そうして向かったセルデン男爵家。その屋敷は、王都西区の閑静な一角に佇む、歴史を感じさせる石造りの邸宅だ。手入れの行き届いた庭園には、季節ごとに花々が咲き誇り、中央には小さな噴水が静かに水音を奏でている。全体的に華美ではないものの、品位と格式を備えた佇まいが自慢だった。
ガレット兄上は俺を優しく抱きしめ、温かく迎えてくれた。 しかし、俺が事の詳細を話すと、兄上の表情が次第に険しくなり、憤りをあらわにした。
「遠征中の騎士の浮気など珍しくもない。 それだけで離縁を切り出されたとは驚きだぞ。 エルナもエルナだ。 平民の孤児だった女が、男爵家の三男と結婚できたことに感謝すべきだろうに。 《《たかが》》浮気のひとつで大事にするとは、理解に苦しむな」
「そうなんですよ、兄上。しかも、俺の大切な懐中時計まで投げつけたんですよ。あれは高位貴族の当主が持つほどの高価な物でした。一番だいじにしていたのに――」
「はっ? けしからん! 訴えてやれ。私が応援してやる。あの元女騎士、王都の商店街で食堂をしているが、兵士たちが代わる代わる手伝いに来ているようだぞ。あの女こそ、何をしていたかわからんぞ。浮気をしている者は、相手の浮気にも敏感だからな」
「えっ? まさかエルナこそ怪しかったんですかね? あぁ、だからあっさり俺を追い出したのか? なんて最低な女だ」
兄上の言葉に、俺の心はざわついた。エルナが浮気をしていた可能性など、考えもしなかった。もしそれが本当なら、俺はいったい何を信じていたのだろうか……ひどい女だよ。
俺は、懐中時計の損害賠償と、団長による不当な業務命令の撤回、そして《《ついで》》に離縁無効の調停も含めて、ガレット兄上の取り計らいのもと、王室法廷に訴えを起こした。
王室法廷――それは王が直接管轄する、貴族や騎士同士の争いを裁く場である。
エルナと結婚したのは――結婚してやらなきゃ、周囲の非難が全部俺に集まっちまうだろ?――そう思ったからだ。
それに、孤児から女騎士にまで上り詰めたエルナは、俺より名の知れた存在だった。だからこそ、そんな女を妻にすれば俺も箔がつくし、「責任を取った男」として、将来も有利に働くだろうと踏んだ。
――平民の孤児だろ? 男爵家三男の俺が拾ってやったんだ。ありがたいと思えよ。
それなのに、何を勘違いしたのか、《《たった》》一度の浮気で離縁を言い出して、団長まで巻き込みやがって。
今に見てろ。レオン騎士団長の配下以外の騎士たちは、きっと俺の味方をしてくれる。騎士団長といっても一人じゃない。全員がレオンに従ってるわけじゃないんだ。
兄上の言う通り、遠征先で“現地妻”ができるなんて、珍しくもなんともないんだからな!
※エルナ視点
その日、団長の予想通り、アレグランは姿を現した。けれど、彼は一人ではなく、隣には立派な口ひげを蓄えた、いかにも貴族然とした男性が伴っていた。
夕暮れ時、食堂で手伝いをしながら周囲に目を配っていたユリルは、すぐさま私を庇うように前に出た。
「アレグランさん。団長からエルナさんに近づかないよう命じられているはずです」
「黙れ、兵士風情が騎士である俺に指図するな! おい、エルナ! 俺は貴様を訴えたぞ! たかが一度の浮気で団長まで味方につけやがって。しかも俺の大切な懐中時計を壊したこと、後悔させてやる。団長だって、俺をあんな惨めな立場に追い込む権利などない。団長も一緒に訴えてやったからな。《《ついでに》》離婚も見直してもらうんだ」
――離婚を見直してもらう?
いったい、この人はなにを言っているのだろう?
屋上でテーブル――以前から屋上に欲しいと思っていた――を組み立ててくれていた団長が、その声を聞きつけて降りてきた。
団長は「万が一」を考えて、私の身を守ることを部下だけに任せきれず、今日も自ら食堂に来てくれていた。
「貴様が俺を訴えた? 面白いな、うん? あんたはセルデン男爵か?」
「レオン団長。あなたがヴェルツエル公爵家の次男であることは存じています。しかし、所詮次男であり、爵位はお持ちでない。私は男爵とはいえ当主です。男爵閣下とお呼びいただきたいものですな」
「そうか。なら、俺のことはグリーンウッド侯爵閣下と呼んでくれ。母方の爵位でな。伯父夫婦に子がいなくて、俺が養子になることが決まった。裁判までには爵位を正式に継いでいるはずだ。よろしく頼む」
その言葉に、セルデン男爵と呼ばれた男は、見る見るうちに顔色を失っていった。
「エルナ。実に愉快な展開になってきたな」
団長は私の方を見て、頼もしい声で言った。
「俺は全力でおまえを守る。ついでに、アレグランへの《《反訴》》も考えような」
――《《反訴》》? 私はこういうことに疎いから、レオン団長がいてくれて、本当に良かった。
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※次回から、愚かなアレグランさん、裁判でコテンパンに……少しずつ追い詰められていく感じをお楽しみください。
※レオン団長は「王都騎士団」所属で、王都内で最強かつ中心的な団の団長。
※他にも王国内には複数の騎士団が存在する。




