クリスマスイブのままのカレンダー
冬音はカップラーメンをすすった。
クリスマスイブの夕食としていかがなものか。
その自覚はあるけれど、今夜は一人だし。
仕事を終えてアパートに帰ってくると、すぐに部屋着のパーカーに着替えた。
ヘアゴムで前髪を雑にアップしておでこ全開。
ちょっと人には見せられない。
正直寂しい27歳のクリスマス。
だけど悲嘆しているわけじゃない。
週末には湊斗に会えるから。
湊斗とは付き合って3年になる。
去年私が転勤になってからは遠距離恋愛。
だけど二週間に一度くらいのペースで会っている。
壁のカレンダーにも、週末に『デート』と書いてある。
本当は今日会いたいけど、平日だから仕方がない。
ケーキは週末に一緒に食べよう。
だから今日はカップラーメン。
これはこれで好き。
不意にチャイムの音がした。
「お届け物です」
「どうも」
配達員からラッピングされたプラスチックの鉢を受け取った。
失敗したな。着替えないで出ちゃった。
気を取り直してテーブルに置いた鉢の花を眺める。
可愛らしい白い花。
◇
冬音へ
メリークリスマス
今日は会えなくてごめんね
かわりといっては何だけど
冬音の好きなクリスマスローズを送るよ
週末に会おうね
湊斗より
◇
ふふ。湊斗ったら。
嬉しいことをしてくれるじゃない。
クリスマスローズをカレンダーの下の棚に移す。
そしてマジックで12月24日に×印を付けた。
あと3つ×を付ければ、湊斗に会える。
そう思っているとスマホが振動した。
湊斗からの着信だ。
急いで応答をタップして言った。
「湊斗、クリスマスローズありがとう!」
◆
ベッドから起き出してカレンダーを見た。
12月23日まで×が入っている。
クリスマスイブの朝。
湊斗に会えないのは残念だけど週末会える。
そう思って出社して、帰宅して、カップラーメンをすすっていると――。
「お届け物です」
湊斗からクリスマスローズが届いた。
嬉しいけど、何か引っかかる。
首を傾げながらカレンダーの12月24日に×印を付けた。
週末には、湊斗に会える。
◆
クリスマスローズが届く。
12月24日に×印。
週末には、湊斗に会える。
◆
クリスマスローズ。
×印。
湊斗には、会えるよね。
◆
◆
◆
クリスマスイブを繰り返している理由は分かっている。
週末には泰斗に会えると思い続けたかったから。
だけどあの着信は湊斗のお母さんからだった。
「泰斗は亡くなりました」
信じたくないよ。湊斗。
クリスマスローズに触れて、その花言葉を思い浮かべる。
『私の心を慰めて』