4-04 俺含めクラスメイト全員、終わってる乙女ゲーに転生ってどういう事ですか?
王立学園の入学式の日、シェラート・エンリは乙女ゲーム『血廻る神婚の灯火』の世界に転生していた事に気づく。それだけであればまだ良かったが、そのゲームはどのルートもだいたい七割のキャラが死ぬし主人公死亡のバッドエンドルート過多、五体満足のエンドすら希少な終わってるゲームだった。その上かれは自分が主人公の立ち位置にいる事に気づく。
自分の死=終末を避けるため悪役令嬢と元攻略キャラの妹と共に、クラスメイトの前世や今世の弱みを握りつつ、崩壊したシナリオを突き進む!
「はあぁー、ほんと最悪だ……はぁ」
入学式を迎えた王立学園の教室で、俺は自席で頭を抱え、小さく嘆いていた。
国名や王族の名前、周辺領の情報から、ここが前世の女友達が熱中していた乙女ゲームの世界かも、なんて冗談半分に考えていた。が、教室に入った瞬間、それが冗談じゃなかったとわからされた。
前世の友人が何度も話題に出し、見せてきたキャラ達が、立ち絵やスチルのままでここにいるし、攻略キャラ達の名前を簡易鑑定魔法で見れば、間違ってないから~と逃げ場をなくしてくる。
創作物の中に転生なんて、ネット小説の中だけで十分だし、よりにもよって、血と暴力と陰謀とイケメンが大好きだったあいつがドハマりしたゲーム『血廻る神婚の灯火】通称血婚の世界に転生とか、嘆かずにはいられない。
殆どのルートで七割以上のキャラが死ぬし、死者が一番少ないルートでも十人は死ぬ。何ならどこぞの運命なノベルゲーよりも主人公死亡のバッドエンドルートが多いし、五体満足でシナリオを終えられるルートすら少ない。
そんな危ない運命を辿る女と、同じクラスになって嘆かずにいられるか、俺は学校が終わったら出奔するぞ! 終末までスローライフしてやる! 最悪一年以内に終末だけど! ともうわけがわからなくなって、変な思考をし始めた時だった。
「あなた、席を間違えているんではなくて?」
鈴の鳴るような綺麗な声と共に、バンッと机を叩かれ、射殺すような鋭いつり目をした黒髪長髪の女生徒――エリカ・フォクシー公爵令嬢、血婚の悪役令嬢が机の前に立っていた。
え、なになになに、なんで初日から、血婚のシナリオにない、一般生徒Aな俺が、全ルート善悪混合で問題の起点となっている存在、フォクシー様にからまれてるの? 急いで席の確認しないと、と入学手続き時に渡された席番を示す木札を取り出し確認するが、
「えっとこちらの札に、私の名前のシェラート・エンリ男爵と、ここの席番が書かれているので、自席で間違いないと思いますが……」
「つっ本当のようね。嘘でしょ、シェラ・エンリがいない……ん? つっ……はぁぁ? 火野蓮司⁉」
札と俺の顔を見比べ顔を青くし、なにやらブツブツと叫びだしたと思ったら、フォクシー様の目が突然驚いた様に丸くなり、俺の前世の名前を零した。なに、なぜ? てか、フォクシー様魔力圧が凄い……。
「シェラート・エンリ!」
「はっ、はい!」
思考にふけっていれば、またフォクシー様が机を叩き、顔をこちらに寄せてきた。
「男爵ごときが惚けるなんて無礼だわ放課後、わたくしに付き合いなさい」
絶妙に演技がかった台詞と共に、了承以外認めないという圧が放たれる。
咄嗟に頷くと、彼女は満足したように鼻を鳴らして離れて行った。
怒涛の流れに圧倒されていたが、フォクシー様が自席に付くと共に冷静になれた。彼女は目を丸くして何を見たんだ?
あの時、目に魔力が籠もっていたから、簡易じゃなく詳細鑑定でもしたのかもしれない。確かめるように自分へ詳細鑑定を行うが、驚くような情報はない。じゃあ何に? と、鑑定魔法をかけたまま、フォクシー様へ視線をむけ絶句した。
名前:エリカ・フォクシー(公爵令嬢)【前世:西乃 菫〔覚醒済〕】
前世の情報が追加されており、そこにはこのゲームを俺に教えた前世の友人の名前がしっかりと記載されていた。
フォクシー様の中身が菫? え、じゃあ俺に話しかけてきたのは俺の存在が分って? いや、だったらあの時、俺の名前なんて言わないか。
じゃあ何故? ん、あれ? 彼女が叫んだシェラ・エンリって、血婚の主人公名じゃなかったか……。てか、主人公の席位置ここじじゃない? 知ってる存在と違う奴が座ってたら、菫なら間違いを指摘するな。
でも俺の席だから……あれ俺、主人公の代わりに転生してない?
家名一緒だし……確か彼女も俺と同じく教会の推薦で男爵位を得てたし。
これは出奔なんていえない。俺が動かなきゃ世界が終わる。それに唯一の友人、菫の事も見捨てられない。死なない為に、シナリオに必須な流れを作る為の協力者と、交友関係持たなきゃ皆死ぬ。絶対生き延びるぞ、と決心し、協力者予定の数人へと視線を向け、また絶句した。
アルバート・ソウサー(男爵子息)【前世:上野 藤二 甲子園
〔未覚醒〕】
フレム・サンチェ(子爵令嬢)【前世:藤崎 泡姫〔覚醒済〕】
カバロ・エンデリ(男爵子息)【前世:小鳥遊 黄熊〔覚醒済〕】
マリーネリー・サリマン(伯爵令嬢)【前世:橘 天愛羅〔未覚醒〕】
苗字と会わせてこんなDQNネーム間違いようがない。全員前世もクラスメイトだった奴等だ。まぁそれはいい。いやよくないけど、それより血婚と性別が違う奴等はやばい。ソウサー様とか令嬢じゃないと不味い。彼の領地内のダンジョンへの挑戦許可に、娘達に甘い父親へのお願いが必須だったはずだ。いくら見た目が男の娘でも、息子なら絶対苦戦する。他に致命的な奴はいたかと菫の話を思い出していれば、初日の講義が終わっていた。
「さぁ、シェラート男爵。所用に付き合って貰いますわ」
教師が帰るやいなや、菫は俺の肩を掴み、引きずるようにして人気のない倉庫へと連れ出された。
「改めて聞くわね。教会からエンリの家名を貰った者でいいのね?」
「そうだが……」
「あぁぁぁぁ、終わったわ……うわぁ、破滅回避もの主人公だわ! なんて思ってたら既にシナリオ崩壊してるじゃない。知ってる王家の血を持つ女とか、死にキャラじゃないの、あぁ……」
頭を両手で押さえながら右往左往する菫。こんな感じのネコのミーム生前流行ってたな。なんて現実逃避しつつ、彼女が何故こんなにも取り乱してるかを思い出す。
血婚の主人公は人ではなく、世界の乱れから産まれた淀みを討伐する為、神がこの国に落とした天使。淀みを討伐する為、王族の血が混じった者と共に、儀式魔法を格子する存在だったはずだ。確か、その儀式魔法がまたトンデモで、抱きつくなんて序の口で、めちゃくちゃ接触するし、互いの肩を噛んで出た血を口付けで混ぜ合わせ、吹きかけた武器で斬るなんて内容だったはずだ。おい、制作者出てこい。
うん頭抱えてるの、この設定のせいだわ。
男の俺が主人公に成り代わる形で転生してしまったから、俺が淀みを討伐する存在であり、王家の血を持つ存在と共に戦わなければいけない。大問題なのが、これが乙女ゲームベースなせいで王家の血を持つ女性が極端に少なく、公式の設定だと二人しかいない。その上片方は招待が明かされず、もう片方は攻略キャラのアルマ公爵子息の腹違いの妹ビビリア令嬢で、なぜかアルマ様意外のルート入ったら絶対に死ぬ存在。助けようにもなんか不可解な死ばかりで、シナリオを参考に回避とか何をしたらいいのか意味不明。
さらにさらに前世で恋愛経験なんか勿論無く、家族以外で女性との会話経験なんて、血と暴力陰謀が好きな終わってるオタクのこの菫か、中二病こじらせてぼっちまっしぐらだった奴しかいない。
そんな俺が儀式に誘う。うん――。
「どうにもなんねぇ……」
「ふふふ、同人誌を先生に没収された時と全く同じリアクションをしてますわ。FXで有り金全部溶かした人のものまねでもしてるんですの? アナタやはり蓮なんですわね」
俺が絶望に頭を抱えていれば、いつの間に立ち直ってたのか菫が俺を見て笑っていた。
「その後半、確かにそんときにお前に言われたな、菫。というかたちなおってたのなお前」
「えぇ、よく考えたら頼りないですけど、状況を理解出来る運命共同体がいるんですもの。シナリオにある程度辿ってあなたとビビリア令嬢をくっつけて、儀式魔法を行使させてれば、互いに生き延びられますわ、蓮」
鋭いつり目を柔らかく歪め、手を差し出す菫。相変わらず、思い切りがいいところは変わらない。俺も、口を三日月型に歪め彼女の手を取る。
「よしさっそく、性別関係で重要な奴の何人かが前世に引っ張られたのか、性別が変わってる件について相談させてくれ」
「え、ちょちょちょ、ちょっと待ってください、どういう事ですの?」
クラスメイトを鑑定していった結果を菫に伝えれば、彼女は説明するたびにドンドン顔を青くしていった。
「待ってくださいまし、もし転生関係で性別がごちゃごちゃになってるのだとしたら、あのクラスの中にビビリア令嬢が子息になってたら事ではありませんこと? 彼女がダメなら候補探しからになりますわ」
あわあわと身振り手振りで状況のやばさを伝えようとしてくれているが、焦りすぎてて微妙にしか分らん。
「逆に王家の血を持つ令嬢が増えているかもし……」
「希望的観測が過ぎますわ! とりあえず、確認しにダメ元で教室に行きますわよ」
慌て、俺の手首を掴んだ菫がドアに手をかけたようとして。
「フォクシー公爵令嬢様この空き教室で殿方と何をしているのです!」
ガタンと突然扉が開き、くすんだ金髪をくるんくるんにまいた、これまたアイスピックの代わりにでもなりそうな鋭い眼光を持つ令嬢が部屋に入ってきた。誰だっけか、と咄嗟に鑑定魔法で名前を探れば、
ビビリア・アルフォン(公爵令嬢)【前世:黒田 有栖〔覚醒済〕】
俺達が探そうとしていた令嬢な上、前世の名すら見たことがある奴だった。てかビビリアお前かよ。
「「中二病こじらせ女!」」
「いきなり何なんですか二人して声を揃えて、中二病は前世にそつぎょ……いや王家の血を持つ公爵令嬢とあろう者が殿方とふ、二人っきりで何をしていたのですかはしたない!」
「「え?」」
この二人が王家の血持ち!?