4-24 【ハーレム系勇者のパーティーメンバー】なんて、こちらからお断りです!!
私ニーナは【冒険者カード】を返納して、冒険者を引退します!
王都の噂では、幼馴染の勇者ロエルに捨てられたって言われてるみたいだけど、違うから!
だって勇者パーティーの目的って魔王討伐だよね?
「可愛い女の子」を集めてるなんておかしいでしょ?
ハーレムやりたいならお好きにどうぞ! 私はパーティーを抜けるから!
でも。
新たな人生の一歩を踏み出す決意を固めた私の前に、ロエルが何度も訪ねてくるんですけど。
「僕が愛してるのはニーナだけなんだ!」
って言われても、私はもう冒険者じゃないので、おかまいなく!
冒険者ギルドが発行している【冒険者カード】。
手のひらサイズのこれは、ただの冒険許可書ってだけじゃないんだ。
身分証の代わりにもなるし、ギルドと提携しているお店の割引だって使えるから、持ってるとすごく便利。
――なんだけどね。
「あの、本当にカードを返納されるんですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「カードの返納は、つまり冒険者として引退を意味しますけど……」
「はい。今日限りで冒険者を引退することにしました」
「どうしましょう……私の推し冒険者が引退って……」
受付のお姉さんは、差し出した【冒険者カード】と私を交互に見る。
ギルド内にいた冒険者たちも、ざわつきはじめたみたい。
私は気にせず続ける。
「これからの私には、国民カードで十分なのでっ」
「いや、あの……冒険者カードの返納というのはですね、高齢の方がうっかり冒険に出ないように始まった制度で……」
「はい。だから、もう冒険には出ないので返納します」
「で、ですが……ニーナ様は王都に五名しかいない、A級冒険者ですし……私の推しですし……その」
受付のお姉さんは大きなため息をつくと、耳元に手をあてて小声で話しはじめた。
「あの……失礼ですけど……やはり勇者様が原因ですか?」
あー、またその話か。
『勇者に捨てられた』とか、『勇者から要らないと言われた』とかウワサが流れてて、みんなが私を同情するように見るんだけど。
捨てられたっていうかいうかね。
あんなハーレム系主人公な勇者! 私からお断りなんですけどっ!!
* *
――二週間前。
王都エルフィード周囲を脅かしていた魔王軍幹部を、私たち勇者パーティーが討伐した。
瞬く間に広がったこのニュースで、国中はお祭り騒ぎ。もちろん私たちだって。
「みんな、よくやってくれた。今夜はお祝いだ!」
勇者のロエルが、上機嫌で宣言する。
「「やったー!!」」
他のパーティーメンバーも周囲の冒険者も大喜び。
だけど私は……無反応。
「おいニーナ。なにをふてくされているんだ?」
「べつに、ふてくされてなんか……」
「その割には随分と浮かない顔をしてるじゃないか」
「そ、そう?」
「ああ。なにか悩みがあるなら、僕が相談にのるけど?」
ロエルは爽やかな笑顔で私に言った。
その笑顔に思わずドキっとする。
……でも、騙されない。幼馴染の私はよく知ってる。
子供の頃から、ロエルは誰にでもこういう顔をする人だから!
「別に……なにも悩んでなんかないし」
「そうなのか? ああ、わかった! 新しいパーティメンバーのことかい?」
「……へ?」
「確かに、ニーナ以外のメンバーが実力不足で心配だよな。でもさ、こうして無事に討伐できたわけだし。ね?」
以前の戦士と盗賊は、ロエルが勝手に追放してしまった。
二人ともB級の冒険者で、実績も実力もあったし、すごくいい人達だったのに。
「大丈夫! ニーナは僕が守るから」
ロエルは爽やかな笑顔のまま、私の肩を軽く叩く。
その仕草に思わず胸がキュンとなったけど……騙されない! もう騙されない!
「あのね。そういうことじゃなくて、ちゃんと戦力としてパーティーのバランスを――」
「勇者様、ニーナ様~っ」
私がロエルへ話しかけていると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。
一人は魔術師の女の子で、もう一人は神官の女の子。二人ともすごく可愛い。
「えへへ、お隣に座っちゃおうーっと」
「あのあの、お邪魔しますぅ……」
魔術師のティアは、私に密着しながらぐいぐい空間を作って私とロエルとの間に座る。
神官のアイリスは、私をちらちら見ながら顔を赤くしてロエルの正面へ座った。
うーん?
ここって世間でウワサの【合コン会場】ってやつじゃないよね?
「ねぇねぇ、ニーナ様からみて今日の私ってどうですか?」
「どう? って……その、大きなリボンが似合ってるし、すごく可愛いと思うよ?」
「えへへ~ニーナ様に褒められちゃったぁ。嬉しいっ!」
ティアは頬に手を当てて身体をくねくねしてる。
アイリスも口を開いた。
「あ……あの、ニーナ様」
「は、はい?」
「そのですね……私も今日は頑張ったんですぅ……どう……ですか?」
どうって……え? なにが?
「う、うん。すごくいいと思うよ!」
「あ、ありがとうございますぅ!」
適当に答えただけだけど、アイリスは嬉しそうに顔をほころばせた。
……あー、わかった。そういうことね?
この二人は、同性の私に言わせることで、ロエルに間接アピールをしてるんだ。
なんて上級テクニック!
二人とも私と同じ十六歳なのに、恋愛のレベルが違うというか経験値が違うというか……。
この調子でアプローチされたら、ロエルだってコロッと落とされちゃうんじゃ……。
って思いながら視線を向けると……ロエルは張り付いたような笑顔で私を見ていた。
「ねぇ、ニーナ。またおかしなこと考えてるでしょ?」
「……え? いや別に……考えてないけど?」
「ニーナって、嘘つくの下手だよね」
その笑顔が……なんか怖いんですけど? 私は思わず視線を逸らした。
「ねぇ、ニーナ?」
「……なによ?」
「次の王女護衛の依頼、ニーナ抜きで行こうと思ってるんだ」
「――え? なんで?」
「うーん、理由は色々とあるけど……」
はいはい、わかりましたよ。
どうせ私を追い出して可愛い女の子と冒険したいだけなんでしょ? もう分かってるんだから!
「ロエルのパーティーなんだから、ロエルの好きにすれば?」
幼なじみが勇者に選ばれて、世界を平和にしたいって熱く語るから、ここまでついてきたっていうのに。
世界を救う旅を、【ハーレム結成の旅】か何かと勘違いしてるんじゃないの?
まぁ、勇者なんだし? ハーレムでもなんでも作ればいいけど。
でも、なんでその旅に私も参加させられてるのよ!
ロエルなんて大嫌いっ!!!
「ニーナ、どうした?」
ロエルが言うけど、もう知らない。
私は何も言わずに一人でギルドハウスから飛び出した。
* *
<勇者ロエル目線>
僕たちは、第三王女の護衛で王都近郊の森へでかけた。
「ねぇ、ポンコツ勇者。なんで今回ニーナ様を外したのよ。ホント意味わかんない」
「まったくですぅ、クソ勇者ですぅ」
「お前らさ……ニーナがいないとこでは露骨に態度変わるよな」
「当り前じゃない! あんなに可愛くて強くて【聖剣の天使】なんて二つ名持ってる憧れの美少女冒険者、他にいないんだからっ!」
「ほんとですぅ。舞うように剣をふるうたび、金髪のツインテがまるで天使の羽みたいにはねて……思い出すだけで最高すぎますぅ」
魔術師のティアと神官のアイリスが、自作のニーナぬいぐるみを抱きしめながら抗議してきた。
この二人……別に元仲間同士ってワケでもないのに、なんか妙に仲いいんだよな。
なんでも同じ推し仲間というやつらしい。
「とにかく。今回は姫の護衛なんだから、暗殺者がきたら危ないじゃないか。ニーナは人間と戦ったことが無いんだ」
「それ、ちゃんとニーナ様に伝えたの?」
「言葉にしなくても……幼馴染の僕たちは通じ合ってるからね」
「本気でキモいんですけど」
「ヘンタイですぅ」
なんだよ、その態度。
「……ようやくニーナに惚れてた戦士と盗賊を追い出したっていうのに……なんで、こんな変なのが二人も入ってくるんだよ」
「パーティー証は返さないわ! 苦労して勇者パーティーに入ったんだから!」
「ですですぅ」
「くそ、新メンバーはニーナと同じくらいの女の子だからって油断してた……ニーナは僕が守るからな!」
僕の決意に、二人は冷たい視線を送る。
……その目、やめろよな。
「むしろポンコツ勇者が一番いらなくない?」
「そうですぅ。ニーナ様は私達が守るので、勇者様は抜けてくださいですぅ」
いや、もうそれ勇者パーティーじゃないよね?
反論しようとしたその時、鞄から「ピロン」って大きな音がした。
「ちょっと! 大事な話をしてるときは冒険者フォン切っときなさいよ!」
「マナー違反ですぅ」
「うるさい、ニーナから連絡が入るかもしれないだろ! だいたい全然大事な話じゃないぞ!」
僕は急いで鞄から冒険者フォンを取り出した。
画面をみると、冒険者ギルドからのメッセージが届いている。
『聖剣の天使ニーナ様が、冒険者カードをギルドに返却されました』
『パーティー証も返却されています。確認のため、王都にお戻りの際はギルドにお立ち寄りください』
『追伸:ニーナ様は返却されたあと「せいせいした!」と叫んでいました』
「はぁ!? なんでだよ!!」