喝采を!
……………………
──喝采を!
展示飛行が開始され、私たち小型ドラゴンの騎手たちは相棒たちとともにイーグルピーク空軍に向けて飛行を始めた。
展示飛行は一番先頭を13メートル級軽戦闘飛竜が務め、私たち小型ドラゴンたちは中央を低空で飛行する。小型ドラゴンが頼りなく見えないように、私たちより大きいドラゴンは高く飛んでサイズ差を感じさせないようにするのだ。
編隊飛行で重要なのは何より協調性。
速度を出しすぎず、高度を保ち、他の僚騎たちの動きに合わせる。
編隊飛行は個人で演出するものじゃないと思う。私が子供ころに見て、そして憧れたドラゴンたちは綺麗な編隊を描き、一糸乱れぬ飛行をしてくれた。とても美しく、力強かったのを覚えている。
それは無数のドラゴンがひとつの生き物のように行動したことで生まれた美しさだ。そう、皆が協力した結果生まれた美しさなんだ。
というわけで、私とワトソンは細心の注意を払って飛ぶ。緊張するが、これで子供のころの憧れをひとつ達成できるのだ。
いつか演習だけでなく、大勢の市民たちの上空を飛んでみたいと、そう思った。
そして、飛行が続く中、前方にイーグルピーク空軍が見えてきた。
私たちは低空を飛行しているので、地上の様子が見える。大勢の人々が空を見上げ、手を叩いていた。拍手喝采だ。
恐らくあの中に空軍参謀総長などがいるのだろう。それから招待された人々などもいるに違いない。そんな人々が私たちを見て拍手をしている。
心が躍るような気分だった。私は興奮してワトソンを急がせないように注意しながら、喝采の空を飛んだ。
展示飛行そのものはほんの数分だった。あっという間に私たちはイーグルピーク空軍基地上空を飛び去ってしまった。
「ねえ。展示飛行は成功かい?」
「成功!」
ワトソンが尋ね、私が笑顔とともにそう返す。
再びホイッスルが吹かれて編隊は解散。
「よくやったな!」
「上出来だった!」
私たちは互いの飛行を讃え合い、歓声が響く。
「前座は上手くいったな。あとは本番だ」
クリフ大尉がそう言うのが私にも聞こえた。
それから私たちはそれぞれの母艦に戻ることになり、私はウォースパイトに向けて飛行する。ウォースパイトは地上に停泊中なのが確認できた。
ウォースパイトは同型艦のクイーン・エリザベスと並んで停泊していた。この2隻の飛行艇には同型艦ながら微妙に違いがあり、一見してそっくりに見えるふたつの飛行艇も私には違って見えていた。
「ストーナー伍長!」
「ジョンソン中尉。上手く飛べましたか?」
「問題はなかっただろうと思うが、自信はあまりない」
「ジョンソン中尉なら大丈夫ですよ」
私たちはそう言葉を交わし、ウォースパイトへと帰投。
「ジョンソン中尉、ストーナー伍長! 見事だった!」
ウォースパイトのハンガーに戻るとイーデン大尉や他の飛行科の将兵が拍手喝采を送ってくれた。みんなニコニコだ。
「艦長も満足しておられた! よくやったな、ふたりとも!」
「はい!」
「次は演習だ! 見事、勝利を勝ち取ってきてくれ!」
そう、次はいよいよアグレッサー部隊を相手にした演習だ。
「ジョンソン中尉。頑張りましょうね!」
「ああ。何としても勝利しよう」
私たちは演習前にワトソンとグロリアに食事を与え、休息させることに。展示飛行ではいつも単独で飛行するワトソンが大勢のドラゴンに囲まれたので、少しストレスになっているといけない。
ゆっくりと文字通り翼を休めてもらい、演習には万全の体制で臨むのだ。
「ワトソン。演習では全力でいけそう?」
「任せて。アグレッサー部隊の大きなドラゴンを見たけど、あんな無駄に大きなデカ物には捕まらないよ。ささっと躱して、手玉に取ってあげるから」
「頼りにしているからね、私の相棒」
ワトソンの傍に私は腰を下ろし、演習の内容を再び読み始めた。
偵察飛行だけならば簡単なものだ。だが、偵察を阻止しようとするアグレッサー部隊の存在が私たちを脅かしている。
「どうやって切りぬけるか……」
アグレッサー部隊に捕捉されなければ、それが一番いい。こっそり飛行して、こっそり偵察して、そそくさと帰還する。
「ワトソン。他のドラゴンに見つからずに飛べる?」
「うーん。そうだね。地上ぎりぎりの低空を飛んで木々に紛れる、とか? それならいいじやないかな?」
「確かに。選択肢のひとつだね」
地上のぎりぎりを飛行する飛行方法──いわゆる匍匐飛行については騎手になるに当たって訓練を受けていた。私もやれと言われればやれると思う。
ただ、私とワトソンはもっぱら海上を飛行する任務が多かったので、何の障害物もない海上とは違う地上でどれだけ本来の能力を発揮できるか分からない。
「ジョンソン中尉。匍匐飛行というのはどうでしょうか?」
「匍匐飛行か。悪くないアイディアだと思う。ただ、一度的に見つかると高所を取られてこちらが不利になってしまうが……」
「ああ。ですね。基本的に空戦は高い所にいる方が有利。基本でした」
空戦においては上から攻撃を仕掛ける側が有利なのは基本だ。
重力を味方に降下してくる戦闘飛竜を回避するのは難しい。それこそ敵の重戦闘飛竜が高所から一撃離脱を仕掛けてきた場合、回避するのはほぼ不可能だ。
「方法はある。私に任せておいてほしい」
ジョンソン中尉は何やら覚悟を決めたようにそう言い、私には私が思うように自由に飛んでくれて構わないと言ってくれた。
しかし、ジョンソン中尉は一体どうするつもりなのだろうか?
……………………