展示飛行と
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──展示飛行と
「諸君。これより合同演習の開催を記念して展示飛行を実施する!」
イーデン大尉がそう宣言する。
「事前の飛行計画はよく読んだな、ジョンソン中尉、ストーナー伍長!」
「はい!」
展示飛行と言っても私たちは曲芸をするわけではなく、基地上空を編隊を組んで飛行するものだ。まさに昔私が憧れた光景の、その一部になるわけだから、テンションも地味に上がってしまう。
「展示飛行は空軍参謀総長閣下と本国艦隊司令官閣下が閲兵される! 諸君にはウォースパイトを代表する将兵だという自覚を持って臨んでもらいたい!」
「はい、大尉!」
「よし! では、準備にかかれ!」
私たちは装備の確認とそれぞれの相棒の体調を確認する。
「問題はないかい、ワトソン?」
「ないさ、ロージー。けど、大勢のドラゴンが集まっているね。少し緊張するよ」
ワトソンはそう言って鼻を小さく鳴らした。
ドラゴンたちは別に鼻がいいわけではない。それは人間よりはいいかもしれないが、犬ほどではないとドラゴンの生態に関する学会は発表している。
彼らは人間のように目で物を捉えるそうだ。大型ドラゴンの品種である重戦闘飛竜は特に目がよく、夜に狩りをするフクロウも真っ青だとか。
それから人間に育てされた彼らは人間の言葉を理解し、同時にドラゴン同士の言葉を理解する。ドラゴンの言語学習能力は人間より遥かに優れているという学者先生も存在するぐらいだ。
というわけで、ワトソンが同族のドラゴンの存在を知ったのは、臭いではなく、周りで喋っている私たちの言葉からだろう。
「ホーキンス先生。ワトソンは飛行に耐えられそうですか?」
私はワトソンが少し緊張しているのをなだめながら、私は空軍の軍服の上から白衣を纏った男性向けてそう尋ねた。
「少し興奮しているようだが、バイタルに異常はない。極めて健康だ。無事に任務を遂げられるだろう。安心するといいよ、ストーナー伍長」
そう答えるのは竜医のホーキンス先生だ。
ホーキンス先生はドラゴンの健康を管理するお医者さんで、ドラゴンたちが傷を負ったり、病気をしたりしたときはもちろん治療してくれる。それからそういうことにならないように事前に予防することもしてくれる。
ホーキンス先生がいなければ私も不安だし、ワトソンも不安だろう。
「ねえ、ロージー。今日は大勢で飛ぶんだよね?」
「そうだよ。編隊飛行をするんだ。前にもやったことはあるよね?」
「確か6ヶ月くらい前だっけ? 僕と同じ小型竜が集まってやったやつ」
「そうそう。それを同じだよ。数は多いと思うけれどね」
「なんだか緊張してきた」
ワトソンはそう言って体をぶるりと震わせた。
「私がついているから大丈夫」
私は安心させるようにワトソンの首筋を撫でる。ごつごつよした鱗を撫でるとワトソンは気持ちよさそうに目を細めていた。
「ストーナー伍長! 準備はできたか?」
「はい!」
「そろそろ時間だ。発艦にかかれ!」
展示飛行の時間が近づいてきた。
私たちはウォースパイトを発艦したのちに、他のドラゴンとの合流地点に向かい、そこで編隊を組んでからイーグルピーク空軍基地上空を飛行する。
「私は中型ドラゴンたちと編隊を組むことになっている。君は小型ドラゴンとだったね、ストーナー伍長」
「ええ。お互い頑張りましょう」
「もちろんだ」
残念だがジョンソン中尉とは一緒に編隊を組んで飛べない。
展示飛行の見栄えをよくするにはやはり同じ種類のドラゴン同士で編隊を組んだ方がいいのである。
「発艦開始!」
それから私たちは手続きに従ってウォースパイトを発艦し、真っすぐ他のドラゴンたちとの合流地点を目指す。
「わあ。凄い数のドラゴンたちだよ!」
「そうだね。凄い数だ」
合流地点には無数のドラゴンたちがいて、編隊を組もうとしていた。
「ストーナー伍長。あれが20メートル級重戦闘飛竜だろうか?」
ジョンソン中尉がそう尋ねる先には戦闘飛竜用の防弾ベストを身に着けた巨大なドラゴンが飛行していた。そのドラゴンたちは一糸乱れぬ動きで、他のドラゴンたちが編隊を組むのを助けている。
「間違いないです。あれがアグレッサー部隊ですね」
「そうか。彼らの動きをよく見ておこう」
ジョンソン中尉はそう言い、鋭い視線でアグレッサー部隊のドラゴンを見た。
アグレッサー部隊は明らかに練度が他の騎手たちとは異なる。彼らは全く編隊を乱すことなく、アグレッサー部隊以外のドラゴンたちが乱している編隊を整えていた。
高度を常に一定に保ち、それでいて他のドラゴンと衝突することもない。
あれが襲い掛かってくると考えるとぞっとしてしまう。
「では、私の参加する編隊は向こうですので、失礼を」
「気を付けて」
私はジョンソン中尉に断ってから小型ドラゴンたちが集まっている方角に向かった。
「おお。僕と同じくらいのドラゴンたちが5体だね」
「私たちで6体めだよ」
小型ドラゴンたちは低空に留まっていた。展示飛行でも私たちは低空を飛ぶ。そうじゃないと小さいから高高度を飛んだ場合、姿を見てもらえないのだ。
「あんた! こっちだ! さっさと加わってくれ!」
「すみません!」
編隊を率いる男性が声を上げ、私は急いで編隊に加わる。私たちは楔側の編隊の一番右側になっている。私とワトソンは編隊の後ろに回り込み、編隊に加わった。
「君はウォースパイトの連絡飛竜?」
そこで同じ編隊に所属し、私の左前にいる飛竜騎手の男性が声をかけてきた。ヘルメットとゴーグルをしているため、顔はよく分からないが、優しい声をしていた。
「そうです。そちらはアイアン・デュークですよね?」
「そう。その通り。私はクリフ大尉で、こっちは相棒のアグリッパ」
「ストーナー伍長です、大尉。こっちはワトソン」
「よろしく、ストーナー伍長。ともに編隊飛行を頑張ろう」
アイアン・デュークの所属となれば精鋭だろう。アイアン・デュークはなにせ本国空中艦隊の帰還であり、本国空中艦隊司令官が座す飛行艇なのだから。
「それにしても、見たかい、アグレッサー部隊の重戦闘飛竜を?」
「ええ。味方なら頼もしいのですが……」
やはり皆がこれからの演習で相手にすることになるアグレッサー部隊のことを心配しているらしい。私としてもそのことに関する不安がまだある。
「戦闘になれば私たちに勝ち目はない。戦闘は全力で回避すべきだろう」
「ですね。ですが、彼らの索敵能力は高いでしょう。回避できるのか……」
「そこは飛竜騎手としての腕の見せ所だ。実戦では敵がどのような防空体制を整えているかも分からないのだから、演習はそれが分かっているだけ温情だよ」
「そうかもしれません」
確かに待ち構えているものが分かっている分、対策の使用はある、のだろうか……。
「今回の条件が私たちの側にとって不利に設定されているのは、誰もが知るところだ。もし、失敗したとしても責められはしないだろう」
クリフ大尉はそう楽観していた。だが、これぐらい楽観的な方がいいのかも。
「編隊飛行開始!」
ホイッスルが吹き鳴らされて合図が発されると私たちはいよいよ展示飛行に!
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今日の更新はこれで終了です。
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