飛行艇大集結
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──飛行艇大集結
合同演習に参加する飛行艇は以下の通り。
空中戦艦6隻。
空中巡航戦艦2隻。いずれもインヴィンシブル級。
空中巡航艦2隻。いずれもパスファインダー級。
空中駆逐艦4隻。いずれもB級。
空中飛竜母艦1隻。フューリアスのみ。
空中戦艦について記載がないのは、集まったのがまちまちなものだからだ。
アイアン・デューク級2隻。オライオン級2隻。そして、ウォースパイトが属するクイーン・エリザベス級2隻。
正直、空軍が想定しているものが分からない。アイアン・デューク級とオライオン級はともかく、クイーン・エリザベス級は速力も主砲の威力も全く違うのだから。
たとえるならば昔ながらロングボウを装備した歩兵と小銃で武装した騎兵を同じ戦列に並べるようなものである。そんなことをしてもどちらも戸惑うだけだ。
「やあ。飛行科の諸君は準備できているかね?」
「はい、艦長!」
そんなことをハンガーで悩んでいたら珍客が訪れた。艦長だ!
私たちは素早く整列し、艦長に敬礼する。
「いいよ、いいよ。畏まらなくて。これから展示飛行だけど準備はいいかね、ジョンソン中尉、ストーナー伍長?」
アンドリュー・タワーズ大佐。それが艦長の名前だ。
空中戦艦の艦長らしからぬおっとりとした性格で、滅多に怒鳴ったりもしないし、部下の体罰には反対している。
それでいてこの巨大な空中戦艦をちゃんとまとめ上げている偉人だ。正直、軍服を脱いでいれば彼が空軍大佐だと気づく人間は少ないだろうが、階級章だけ大佐の人よりもよっぽど偉いと思う。
「はい、艦長。準備できております」
「同様です」
ジョンソン中尉と私がそろってそう言う。
「それはよかった。いいかい。今回の演習の主役は君たちだよ」
「そうなのですか?」
私は思わず尋ね返してしまった。
「そう、君は飛行艇に詳しいから分かるだろう、ストーナー伍長。速力も主砲も違う空中戦艦は烏合の衆だ。空軍が今回の演習で空中戦艦に求めているのは対地艦砲射撃の精度ぐらいだろう。上陸作戦でも想定しているのか……」
タワーズ艦長の読みと自分の読みが当たったのに私は内心で喜んだ。
「しかし、飛竜騎手は精鋭がそろっている。フューリアスに乗っているのは、例のアグレッサー部隊だ。20メートル級重戦闘飛竜と13メートル級軽戦闘飛竜がそろっている。君たちにとって恐ろしい敵になるだろう」
私たち飛行科の将兵たちにタワーズ艦長は静かにそう警告した。
「もちろん、君たちの役割は戦闘飛竜のように敵ドラゴンを駆逐するものではないことは承知している。だが、戦場とは悪意を煮詰めた場所だ。君たちが戦闘飛竜に乗っていなくとも、手加減してもらえることは決してない」
重い言葉だった。確かに敵が私たちを見て『偵察なら見逃そう』と思うはずがないのだ。むしろ偵察だからこそ、敵は全力で潰しに来るはず。それは敵の目を潰すチャンスなのだから。
「ジョンソン中尉、ストーナー伍長。助け合うように。それが生き残るために必要だ。それからこの艦に残るものも全力で彼らを支えてほしい」
「はっ! 了解です、艦長!」
イーデン大尉が鼓膜が破れそうなほどの大声で了承し、タワーズ艦長は困ったように少し笑っていた。
「では、失礼するよ。諸君の健闘を祈る」
タワーズ艦長はそう言ってハンガーから立ち去った。
「艦長から直接のお言葉を受けたのだ。諸君、決してぬかるな!」
「はい!」
しかし、困った。
「アグレッサー部隊の件。相当不味いですよ、ジョンソン中尉」
「そうなのか?」
「ええ。20メートル級重戦闘飛竜は空軍にも僅かにしかいません。それだけ貴重なドラゴンなだけあって強力です。速力と航続距離ともに下手な飛行艇を上回り、さらには全天候対応なんです」
13メートル級軽戦闘飛竜は正直想定した範囲だ。
だが、重戦闘飛竜となると話が変わる。夜目が鋭い彼らは朝だろうと夜だろうと私たちを探し続け、雨が降ってもそれは同様。その上、いくら逃げても追いかけられるだけの力があるのだ。
「空軍はもっぱら夜間偵察飛行や艦隊の要撃戦闘に彼らを当てていると思ったのですが、それなら当然アグレッサー部隊にもいますよね……」
「ふむ。大きければそれだけ旋回力は落ちるのでは? 純粋なドッグファイトの性能は落ちる。違うだろうか?」
「ええ。ある程度は落ちるでしょう。しかし、ドラゴンは筋肉の塊です。大きければそれだけ速力は出ます。その速力で一撃離脱をされると敵いません」
「とするならば……」
ジョンソン中尉は何やら考え込んだ。
いいアイディアがあるとすれば教えてほしい。これまでジョンソン中尉がとは何度が一緒に飛んだが、彼は空軍の慣習や飛行艇には無知かもしれないが、ドラゴンのことになると私と同じくらいか、それ以上の知識だ。
「任務の内容は偵察飛行を実施し、母艦に帰投すること。それだけだ」
「ええ」
「それだけなんだ、伍長」
「……?」
私はこの時ジョンソン中尉があんなことを考えているとは思っていなかった。
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