移乗戦闘開始!
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──移乗戦闘開始!
ウォースパイトが担当する空域には囮となる民間飛行艇ジャピー・アンシェールが使用される。これは貨物輸送用の飛行艇でジャピー・エアという企業が、特別にガリア国家憲兵隊に提供したものだ。そう、イーデン大尉が説明してた。
そこまで大きな飛行艇ではなジャピー・アンシェールはガリアの首都ルーテティアを離陸して、空賊たちが縄張りとしている空域をゆっくりと飛行する。
「空賊は引っかかるでしょうか?」
「引っかかることを願いたいが、すぐとはいかないだろう」
空賊が襲う飛行艇は金目の物を積んでいたり、お金持ちが乗っていたり、あるいは武器を運んでいたりするものだ。
ジャピー・アンシェールは飛行計画に宝石を運んでいると申告してあり、当然ながらそれは虚偽の申告であり、空賊を釣るためである。
ウォースパイトがすぐに駆け付けられて、それでいて空賊からはウォースパイトが見えない位置を飛行し続けること45分。
『ジャピー・アンシェールから救難信号! 空賊と接触した模様!』
スピーカーに副長の声が響いた。
「いよいよだぞ……!」
イーデン大尉が眼を爛々と光らせている。ヘイワード中尉たち陸戦隊員もだ。
「では、ジョンソン中尉。打ち合わせ通りに」
「ああ。任せる、ストーナー伍長」
私とジョンソン中尉はワトソンとグロリアに乗り込み、発艦準備を開始。
その間にウォースパイトは最高速度で加速し、ジャピー・アンシェールの救援に駆け付けた。ウォースパイトの見張り員たちは今頃空に目を凝らして、空賊の飛行艇を見つけようとしているだろう。
「あれだ! あれが空賊の飛行艇だ!」
私たちが待機するハンガー内で声が上がり、ジャピー・アンシェールを追いかける武装した大きな飛行艇が目に入った。
その武装した飛行艇には両減に剥き出しの銃座が2か所あり、そこには大口径の重機関銃が据えられていた。
屈強な男がハーネスも付けずにその重機関銃を構えてジャピー・アンシェールを狙っていたが、ウォースパイトが雲の中からその巨体を見せると明らかに驚いて、腰を抜かしそうになっていた。
『敵が発砲した! 警戒せよ!』
それでも空賊たちは重機関銃の銃口をウォースパイトに向けて発砲してきた。
『こちら王立空軍所属空中戦艦ウォースパイト! 現在本艦はガリア国家憲兵隊の要請を受けて警察行動中である! 不審な飛行艇に告ぐ! ただちに停戦してこちらの臨検を受けなさい!』
副長がスピーカーと無線の両方で空賊の飛行艇に呼び掛けている。
「流石に彼らもあの程度の武装で空中戦艦とやり合えると考えるほど愚かではないだろう。直にこちらの要求を受け入れるはずだ」
アーサーはそう冷静に告げていたが、顔には緊張の色が見えた。
「不審船が速度を落としています!」
見張り員がそう報告するのが聞こえる。
先ほどまで重機関銃を乱射していた空賊の飛行艇が動きを止め、銃座にいた射手も飛行艇内に戻り始めていた。
『艦長より飛行科及び陸戦隊へ。臨検を実施せよ』
「聞こえたな! 出撃だ!」
艦長の目入れに続いてイーデン大尉の命令が響く。
「全員、乗り込め! 急げ、急げ!」
ヘイワード中尉が声を張り上げ、陸戦隊員たちがワトソンとグロリアに乗り込む。
「搭乗完了! いつでもいいぞ!」
安全確認が瞬時に行われ、ヘイワード中尉が私に向けてそういった。
「では、行きます!」
私は甲板作業員の誘導で飛行甲板に入り、大空へ向けて飛び立った。その後からすぐアーサーとグロリアが発艦する。
私は空賊の飛行艇にじっと注意を払い、確実に接近していく。空賊の飛行艇に向けてウォースパイトは主砲も、副砲も、高射砲も向けているが、相手が絶対に馬鹿をやらかさないという保証はない。
「あそこに下ろしてくれ」
「了解」
ヘイワード中尉たち陸戦隊員はエンフォーサー小銃を既に構えており、自分たちを狙う敵がいないか警戒している。
私はヘイワード中尉の指示した通りの場所に降り、ヘイワード中尉たちはすぐさまカラビナを外し、エンフォーサー小銃を構えて飛行艇内に突入していった。
続いてアーサーも陸戦隊員を降下させ、飛行艇の制圧を開始。
私とアーサーはヘイワード中尉たちが無事任務を果たしてくれることを祈りながら、空賊の飛行艇の甲板で待機し続けた。
やがて、飛行艇から白旗が掲げられ、ヘイワード中尉たちが戻ってきた。
「この飛行艇は無事に制圧した。今から俺の部下たちがガリア国家憲兵隊の指定する飛行場まで持っていく。残りは撤収だ」
「了解です」
無事に任務は完了した。あっさりとしていたぐらいだ。
私とアーサーは12名いた陸戦隊員のうち、ヘイワード中尉と含め4名を回収してウォースパイトへと帰投。
「無事に任務を果たしたようだな、ジョンソン中尉、ストーナー伍長!」
「はい!」
ウォースパイトに戻るとイーデン大尉が私たちを出迎えた。
「やりましたね!」
「俺たちの勝利だ!」
ハンガー内は喝采に包まれ、笑い声が響いた。
「上手くいきましたね、ジョンソン中尉」
「ああ。本当に上手くいった、ストーナー伍長」
そんな中、私とアーサーは顔を見合わせて笑う。
「これでガリアも我々に感謝することだろう!」
イーデン大尉が満足げにそういっていた時だ。
「イーデン大尉!」
飛行科の下士官がハンガーに飛び込んできて、イーデン大尉に何事かを告げた。
「──なんだと!」
イーデン大尉はその報告に驚きの表情を見せたのち、険しい表情で私たちを見る。
「諸君。事態が急変した。空賊のアジトに突入したガリア国家憲兵隊が、空賊が人質を乗せた飛行艇を逃してしまった。現在も飛行艇は逃亡中だ」
なんてことだ! 上手くいったと思ったのに……。
「我々にはこの飛行艇を拿捕するように要請が出ている。もうひと仕事だ!」
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