ネプテューヌ作戦
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──ネプテューヌ作戦
『ファイアフライからソードフィッシュ。警戒せよ。空賊のアジトから飛行艇が出てきている!』
アーサーからの警告に私は急速に高度を落とし、地上すれすれを飛ぶ。
それから空賊のアジトである洞窟からウォースパイトよりははるかに小さく、武装は機関銃のみの飛行艇が出て来た。海上での運用を考えているのか、胴体にフロートを装備している。
その飛行艇は私たちに気づくことなく飛び去っていった。
「危なかったな……」
「ええ。でも、もうアジトに着きましたよ」
私は低空飛行で空賊のアジトである洞窟に到着していた。
「ここからは我々に任せてくれ。あなた方はここで待機を。30分を過ぎても我々が戻ってこなければウォースパイトに帰投し、異常を知らせてほしい」
「分かりました」
「では」
そして偵察員たちは小銃を構えて洞窟の内部に侵入していった。
アーサーは時間を計測し、私は無事に偵察員たちが戻ってくるのを待つ。
いつもならばあっという間の30分のはずが、今日は酷く時間が経つのが遅く感じる。
「……! 戻ってきたぞ、ストーナー伍長」
「はい」
偵察員たちはひとりも欠けることなく、私たちのいる場所に戻ってきた。
「すぐに出してくれ。やはり人質がいた」
「了解」
偵察員たちがワトソンのハーネスにカラビナを接続したのを確認して、私たちは静かに離陸。ウォースパイトを目指して帰投した。
「ありがとうございました!」
「お疲れ様です!」
ガリア国家憲兵隊の偵察員たちは私とアーサーにお礼を言い、私たちはそんな彼らの苦労を労わった。
この偵察員たちが持ち帰った情報は、無事にタワーズ艦長とブランシェ中佐に届けられ、彼らは改めて作戦を立案した。
「諸君、いよいよ空賊どもに正義の鉄槌を下すべき時が来た!」
イーデン大尉がそう宣言。
「我々は囮となる飛行艇を使って空賊をおびき出し、やつらがのこのこと現れたところに殴りかかる! 空賊がまともな判断力を持っていればウォースパイトが現れた時点で降参するだろうが、楽観はするな!」
前にブランシェ中佐が決めたのと同じ計画が実行されるようだ。
「我々飛行科は空賊の飛行艇に対する臨検の任務を負っている! 危険な任務であるので防弾ベストとヘルメットの着用を怠るな! 誰ひとりとして戦死することは、この俺が許さん!」
防弾ベストは重くて、着ぐるしく、それに加えてあまり防御力がないことで知られる、嫌われ者の装備だが、イーデン大尉がいうからには着用しなければならない。
「本作戦はネプテューヌ作戦と呼称! 気合を入れろ!」
「了解!」
私たちは空賊退治に向けて動き始めた。
「防弾ベストです、ストーナー伍長。しっかり頼みますよ!」
「もちろん」
私は防弾ベストを受け取り、着用方法を確認。
飛行科は今回は主役に近い。空賊の飛行艇に陸戦隊を送り込むのは、他ならぬ私たちなのだ。危険を冒す任務は同時に熱狂のようなもの生んでいた。
「ストーナー伍長」
「ラムリー中佐?」
と、そんなときにラムリー中佐がハンガーを訪れた。
「君に頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
ラムリー中佐が改まった様子で言うのに私はそう尋ね返す。
「ジョンソン中尉を守ってくれとまでは言わない。だが、無茶をしないように注意を払ってほしい。君にはこの意味が理解できるだろう?」
「……ええ。ジョンソン中尉のことはお任せください」
アーサーは本当は第一王子だ。
それが機関銃や火砲で武装した空賊の飛行艇に陸戦隊を運ぶのである。とても危険な任務なのは分かり切っている。
私はアーサーを死なせないために努力するつもりだ。もちろん、私自身も死ぬつもりなどさらさらない。
戦友の自己犠牲で助かっても後が辛いだけだ。
「では、君に任せる。頼むぞ」
ラムリー中佐は私の方を叩いて、ハンガーから去った。
それと入れ替わるようにしてヘイワード中尉たち陸戦隊がやってきた。
「ジョンソン中尉、ストーナー伍長。今回はよろしく頼む。我々は貴官らを全面的に信頼し、命を預けるつもりだ。そして、ストーナー伍長、そちらのドラゴンには俺が乗る。できれば真っ先に敵艦に放り込んでくれ」
「はい!」
ヘイワード中尉が言い、私とアーサーが頷く。
「では、各自装備を確認せよ!」
ヘイワード中尉は陸戦隊員たちに向けて命じる。
彼らは防弾ベストとヘルメットを身に着け、銃身を短くしたエンフォーサー小銃や手榴弾で武装している。その装備のひとつひとつを陸戦隊員たちは確認していき、任務に臨めることを確認していた。
同時に私とアーサーはワトソンとグロリアに確認を取っていた。
「ワトソン。敵の砲弾が飛んで来たら、上手く躱してね」
「無茶苦茶言わないでよ。重たい陸戦隊員を僕は抱えて飛ぶってのにさ」
私が冗談めかしていうのにワトソンがいささか憤慨する。
「大丈夫だ。基本的に私たちの背後にはウォースパイトがいる。民間飛行艇に武装を施しただけのもので、ウォースパイトと敵対しようとは敵も思わないだろう。ウォースパイトの主砲が火を噴けば、敵は木っ端みじんなのだから」
私たち安心させるようにアーサーがそう語る。
「そうですね。でも、今回は先頭は私が行きますよ。私のワトソンにヘイワード中尉が乗ることになっていて、彼は最初に突入することを望んでいますから」
「しかし……」
「私のこと、信頼できませんか?」
私はアーサーにそう尋ねた。
「そんなことはない。信頼している。だが、それでも私は君を……」
「ジョンソン中尉。命令なら受け入れます。ですが、そうでないのならば、やはり私が先頭で行きます。よろしいですね?」
私の言い方は少し卑怯だけど、これぐらいしないとアーサーはまた自分を犠牲にして勝利を手に入れようとするだろう。それはダメだ。
「分かった。命令はしないよ。君の方がベテランなのだから、私はそれを信頼する」
「ありがとうございます。帰ったらまた遊びに行きましょうね」
緊張した様子のアーサーに私は笑いかけ、リラックスできるように空気を和らげた。
『艦長より全乗組員へ。ネプテューヌ作戦発動。繰り返す、ネプテューヌ作戦発動』
タワーズ艦長からそう指示が入り、ついに作戦は開始された!
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