空賊たちのねぐら
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──空賊たちのねぐら
ウォースパイトは野良ドラゴンが示した空賊のアジトに向けて飛行。
「艦長から命令だ。この地点からドラゴンを発進させて、偵察を実施する!」
イーデン大尉がそう命令し、いよいよ私たちの出番がやってきた。
「ジョンソン中尉、カーライル中尉。作戦はどうしますか?」
「前の偵察のように私が君の前を飛ぶ。野良ドラゴンに先導してもらい、私とカーライル中尉は低空から、君はより高い高度から情報を得よう」
「了解です。無理はしないでくださいね」
「ああ。当然だ」
アーサーは私を危険から遠ざけようとしているように思えた。
その理由が私が女だからなのか、それとも年下だからなのか、あるいは階級が低いからなのかは分からない。ただ、これは上官の命令であり従わなければならないというだけである。
「それでは出撃準備だ」
「ええ」
私たちは私はワトソンに、アーサーとカーライル中尉はグロリアに、それぞれ乗り込み、まずは野良ドラゴンが飛行甲板から飛び立った。それに続いてグロリアとワトソンが次々に飛び立つ。
「ワトソン。追い越さないようにね」
「とはいっても、あいつ飛ぶのが凄く遅いよ」
野良ドラゴンはあの丸々として体のせいか、飛ぶのがやや遅い。軍用として鍛えられているワトソンやグロリアからすると追い越さないようにする方が大変だ。
暫く飛行すると大きな岩が並ぶ崖が海岸線沿いに見えてきた。
「────!」
「この近くみたいだよ、ロージー」
野良ドラゴンは自分についてくるようにジェスチャーすると、高度を落とす。アーサーのグロリアがそれに続き、私は逆に高度を上げる。
そして、私は上空から海岸線を見渡した。
「見て、ロージー! あそこに洞窟みたいなのがあるよ」
「本当だ。ジョンソン中尉たちも気づいたみたい」
私は上空から見た光景をスケッチしつつ、いつでも低空を飛ぶアーサーたちを援護できる位置を維持する。
幸い、援護が必要になるようなことはなく、アーサーたちは離脱した。
そして、私たちはウォースパイトへと帰投。
「情報は正しかったです、イーデン大尉。この地点にて武装が施された民間飛行艇複数を確認しました」
「よくやった、ジョンソン中尉、カーライル中尉、ストーナー伍長! すぐに艦長に報告してくる。次の命令を待て」
イーデン大尉はジョンソン中尉に報告を受けて、満足げに頷くとタワーズ艦長に報告に向かう。
私たちは空賊のアジトを掴んだ。次はどうするのか。
と、思ったときにガリア国家憲兵隊のブランシェ中佐が再びウォースパイトに乗り込んできた。そして、何故か私たちもブランシェ中佐とタワーズ艦長が話し合う場面に同席するように求められた。
「この度は貴重な情報を提供していただき、ありがとうございます」
ブランシェ中佐はまずタワーズ艦長にそうお礼を述べる。
「空賊のアジトが見つかったところで、作戦を立てておきたいと思います。まず空賊が人質の類を取っていないかを確認しておきたい。アジトに潜入する必要があります」
「それは国家憲兵隊で?」
「そうしたいのですが、我々には隠密行動が可能なドラゴンを有しておりません。そちらに協力していただければ助かるのですが」
「もちろんだ。協力しましょう」
私とアーサーの出番かな?
「その後の作戦は空賊を分散させたいと思います。囮の飛行艇を使って、空賊どもの飛行艇を釣りだすのです。そして、釣りだした飛行艇をウォースパイトが、アジトに残ったものを我々国家憲兵隊が制圧する」
「各個撃破は基本ですな。いいでしょう。それで行きましょう」
「ありがとうございます、大佐。では、まずはアジト内部の偵察です」
ということで、再び空賊のアジトを偵察することに。しかも、今回は内部に侵入して偵察するそうなのである。
内部への侵入そのものはガリア国家憲兵隊が行うが、そこまで運ぶのは私とアーサーということになった。事前に航空偵察を行った実績があることと、その際に気づかれずに飛行できた実績のふたつがあるからだ。
「今回はお願いします!」
「はい」
ガリア国家憲兵隊の軍服を着て小銃を装備した偵察員たちがウォースパイトにやってきて整列して敬礼。私とアーサーも敬礼で応じる。
「ウォースパイトが近くまで進出しますので、それから行動開始です」
「了解!」
アーサーが説明し、偵察員たちが了解した。
それからハンガーでは陸戦隊員を乗せるように、国家憲兵隊の偵察員をワトソンとグロリア乗せるための準備が始められた。ウィーバー上等兵たちが慌ただしく行動する。
ウォースパイトは再び空賊のアジト付近の空域に進出するが、今回は地上の敵に気づかれないように高高度で接近し、一気に高度を落とす方法を取った。
それに加えて敵に察知されないように夜間になってから私たちは出撃する。
「発艦開始!」
「ストーナー伍長、行きます!」
それから私とアーサーは偵察員を搭載して出撃し、空賊のアジトへと向かう。
私は4名の、アーサーは8名の偵察員を乗せ、以前のようにアーサーが先頭で空賊のアジトへと接近していく。
「アジトに直接乗り付ける必要はありません。入り口の近くに下ろしてください」
「了解」
偵察員の下士官からそういわれて私は着陸できそうな場所を探す。
しかし、そうやって地上に近づいた時だ。
『ファイアフライからソードフィッシュ。警戒せよ。空賊のアジトから飛行艇が出てきている!』
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