野良ドラゴン
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──野良ドラゴン
家畜を貪っているドラゴン。
そのドラゴンにはハーネスもつけられていないし、軍用ドラゴンにあるまじき丸さであった。たらふく食べたけど、運動はしていないという具合。
「君! 野良ドラゴンでしょう!」
私がそう声を上げると、そのドラゴンはびくりとしてこっちを向いた。
「────!」
そして、不明瞭な鳴き声でそう私に話しかけて来たのだ。
「あれはドラコ語だよ、ロージー。翻訳するね」
「お願い、ワトソン」
ドラコ語を理解できるのは同じドラゴンだけである。
「“お腹がすいていたところに、いい匂いがしたので来てしまった。許してほしい”だってさ。家畜泥棒だよ、あいつ」
「いっぱいあるから少しくらいはいいかもしれないけど。後で基地の人に謝るように言っておいて、ワトソン」
「分かった」
そして、ワトソンから野良ドラゴンに向けてドラコ語で話しかける。
野良ドラゴンは何やら首を横にブンブン降り、言い訳するようにジェスチャー。
「あいつ、何て言ってるの?」
「“2度目のつまみ食いだから、怒られる”って。本当に2回だけかな?」
「もー。困ったやつだね」
私たちが呆れていると野良ドラゴンが再び何かを告げる。
「ん? あいつが“君たちの探しているものを知っている。それがどこにあるのかも。だからもうちょっと食べさせて”だって」
「私たちが探しているものを知っている……? つまり空賊のアジトを?」
「聞いてみる」
再びワトソンと野良ドラゴンがドラコ語で会話。
「そうだって。あいつは空賊のアジトを知っているって!」
ワトソンがそう歓声を上げる。
「凄い。本当なら、家畜をプレゼントするから場所を教えるように言って!」
「うん。任せて」
ワトソンが私の言っていたことをドラコ語に翻訳して伝えた。
「“地図を持って来て”だって」
「ここにあるよ」
私が地図を広げると、野良ドラゴンは地図の方にやってきて、爪でまず現在地である空軍基地を示し、それから別の海岸沿いを示した。
「ここに空賊のアジトがあるんだね?」
私の言葉をワトソンがドラコ語にして伝えると野良ドラゴンは何事かを語り始めた。
「前に空賊の仲間に加わっているドラゴンと喧嘩になったから覚えているんだってさ」
「ふむふむ。本当そうだね。すぐにタワーズ艦長たちに伝えないと!」
「僕はこいつと暫く一緒にいて話を聞いておくよ」
「お願いね、ワトソン」
ワトソンを残して私はウォースパイトに駆け戻る。
「あれ? ストーナー伍長、ワトソンはどうしたんですか?」
「それよりイーデン大尉に報告です! 空賊のアジトが分かったかもしれません!」
オライリー伍長が首を傾げて私を出迎えるのに私がそう言った。
「イーデン大尉! 報告です!」
「なんだろうか、ストーナー伍長!」
イーデン大尉はハンガーで次の飛行任務に向けて準備を進めているところであった。
「報告します! 先ほど地元の野良ドラゴンと接触し、空賊のアジトについての情報を入手しました。聞いていただけますか?」
「本当か! それはすぐに報告してくれ!」
「はい!」
私が地図を指さして説明している途中で、ワトソンが例の野良ドラゴンを連れてウォースパイトへと戻ってきた。
「あ! あの野良ドラゴンから聞きました!」
「ほう」
イーデン大尉を始めとする飛行科の将兵が野良ドラゴンの視線を向ける。
「────」
「イーデン大尉。こいつgが1週間分の家畜をくれるなら、現地まで案内するって」
野良ドラゴンのドラコ語をワトソンが翻訳して伝える。
「いいだろう。協力してもらおう!」
それから野良ドラゴンがアジトの具体的な位置を伝え、イーデン大尉はそれをタワーズ艦長へと報告した。報告には私とワトソンも同行した。
「ふむ。野良ドラゴンからの情報提供か……」
「その野良ドラゴンは現地に同行すると言っております」
タワーズ艦長は艦橋で副長たちと考え込み、イーデン大尉がそういう。
やはり野良ドラゴンの情報ともなると信頼が微妙だろうかと自分でも思うのだが、タワーズ艦長は私たちに笑みを浮かべて見せた。
「分かった。この情報に頼ろう。今は何も情報がないのが現状だ」
そして、タワーズ艦長はそう決断し、頷いた。
「ガリア国家憲兵隊に連絡し、この地点を偵察する。ラムリー中佐にも連絡を」
「了解!」
私たちは新たな情報を頼りに動き出した。
「こら! 大人しくしてろって!」
ハンガーに戻ってくると野良ドラゴンとウィーバー上等兵たち竜務員が揉めていた。
「どうしたんです、ウィーバー上等兵?」
「ああ、ストーナー伍長。安全のためにハーネスを付けたいんですが、この野良ドラゴンに抵抗されて。ワトソンのハーネスだとサイズがギリギリのせいですかね。こいつ、太いんですよ」
「それは困ったね」
飛行艇内では安全のためにドラゴンもハーネスを付ける必要があるが、予備のハーネスは明らかに野良ドラゴンのサイズに合ってなくて、野良ドラゴンは抵抗していた。
「こいつの面倒は僕が見ておくよ。ハーネスはグロリアのをとりあえず付けたら?」
「そうするよ、ワトソン」
ワトソンが野良ドラゴンに落ち着くように言い、ウィーバー上等兵たちはグロリアのための大きなハーネスを準備し始めた。
ドラゴンがハーネスを付けて冠に固定されてないと、飛行艇が急旋回した際などに他の乗員にぶつかって大けがを負うか、最悪死亡する可能性がある。
空という空間で三次元の動きを行う飛行艇では全ての家具などが固定されているのも、その理由からだ。
「ストーナー伍長。このドラゴンは?」
そこでグロリアを地上施設に送り届けてきたアーサーがハンガーに戻ってきて、怪訝そうにそう尋ねてきた。
「彼はもしかすると我々の助けになるかもしれない野良ドラゴンです。事情をご説明しますね」
私は野良ドラゴンが家畜を盗み食いしていたところから、空賊のアジトを知っていると言ったこと、そしてタワーズ艦長がこの情報に賭けることにしたことを説明。
「思いもよらないところからの情報提供だね。君はいつも思いもよらないことを成し遂げる人だ。野良ドラゴンを話しも聞くことなく追い払わず、話を聞くというのは本当に意外な手段だ」
「いえいえ! 偶然ですよ!」
アーサーが畏まるのに私が慌ててそういう。
「それでも私には同じことはできなかっただろう」
アーサーは笑みを浮かべてそういってくれた。
「全員、整列!」
そこでイーデン大尉もハンガーに戻ってきて、いつものようによく響く声で号令をかける。私たちは一斉に整列した。
「先ほど任務が決定した! ガリア国家憲兵隊と合同で我々は空賊のアジトとされる地点を偵察する! 偵察飛行の準備を始めるように!」
「了解!」
私たちにとってのラストチャンスとなる任務。成功するのかどうか……。
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