国家憲兵隊の要請
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──国家憲兵隊の要請
ガリアからは国家憲兵隊という組織が今回の合同作戦に参加した。
「国家憲兵隊のブランシェ中佐です。よろしくお願いします」
その国家憲兵隊から派遣されてきたのはラムリー中佐より少し若いくらいの男性で、その鍛えられた体にびしっとした藍色の軍服を纏っていた。
「よろしく、ブランシェ中佐。我々がすべきことをまずは教えてほしい」
タワーズ艦長が笑顔を浮かべてから、そう求める。
「ウォースパイトの方々には、事前に通知しておきましたように偵察飛行をまずは実施していただきたい。我々はいくつかの地点に空賊のアジトがあると踏んでいます」
ブランシェはそういって彼らの地図を広げ、地図の上のいくつかの点に丸を付けた。
「ジョンソン中尉、ストーナー伍長。この地点だ。確認しておくように」
「了解です、艦長」
この会議には私たちも参加しており、ブランシェ中佐の発言に注目する。
「この北部方面の空賊たちは武装が重装で、これまで我々の取り締まりを逃れてきました。この度はウォースパイトという強力な飛行艇が味方ということもあり、根こそぎ連中を取り締まりたいと思っています」
ブランシェ中佐が続ける。
「まず連中の犯行について説明しましょう。連中のビジネスは主にふたつ。強盗と誘拐です。飛行中の飛行艇を襲い、そこに積み込まれていた物資を略奪し、人を乗せていれば誘拐して身代金を要求する」
ブランシェ中佐の言葉にタワーズ艦長たちは険しい表情を浮かべていた。
「もちろん殺人も行っています。特に取り締まろうとした国家憲兵隊の飛行隊に所属する隊員が今年だけでも21名殉職しました」
「お気の毒に」
「お気になさらず。ですが、我々としても連中をこれ以上野放しにはしたくありません。今回の取り締まりで一斉に逮捕したい」
タワーズ艦長が哀悼に異を示すのにブランシェ中佐は力強くそういった。
「では、作戦を確認しましょう。まず偵察飛行などで空賊のアジトを特定」
ブランシェ中佐がそういって作戦を確認し始める。
「アジトに人質になっている人間などがいないかを確認。その後、人質がいるならば救出作戦も計画して、空賊の取り締まりに当たります」
「了解した」
「それではご協力お願いします」
こうして私たちとガリアの空賊合同取り締まりが始まったのだ。
「早速だが指定された地点の偵察をお願いする」
「了解!」
艦長からそう命じられ、イーデン大尉と私たちが敬礼。
それから私たちはハンガーへと移った。
「我々はウォースパイトを母艦にガリア国家憲兵隊から指定された地点の航空偵察を実施する! これには今回の合同捜査の成否がかかっている! 気合を入れるように!」
いつものようにイーデン大尉が大声で命じる。
「航空偵察を行う地点は4か所! それぞれポイント・アルファ、ポイント・ブラボー、ポイント・チャーリー、ポイント・デルタと呼称する!」
ガリア北部にある山と海岸沿いの4か所に偵察要請が出ていた。
「まずはポイント・アルファからだ! ウォースパイトはこれより当該地点付近に進出する。飛行科はその間に出撃準備だ!」
「了解!」
それからウォースパイトはピエール・クロステルマン空軍基地を出撃し、まずはポイント・アルファとしてガリア側に示された場所に向かう。
ポイント・アルファは山岳地帯で、この付近に空賊がアジトを持っているのではないかとガリア国家憲兵隊は疑っているようだ。
「ジョンソン中尉、カーライル中尉、ストーナー伍長。準備はいいか?」
「はい、イーデン大尉!」
「よろしい。では、出撃だ!」
私たちはイーデン大尉に命じられてウォースパイトから出撃する準備を開始。
「ストーナー伍長。私が先導するのでついて来てくれ」
「了解です、ジョンソン中尉」
そして、私とアーサーが段取りを決めると、私たちは発艦した。
「うう! ここは寒いよ、ロージー」
「我慢して。帰ったら温かいスープを作ってもらうから」
「約束だよ?」
私は防寒着としてジャケットなどを着て、マフラーも巻いているが、ワトソンはそのままだ。彼はこの山岳地帯の寒さに文句を言っていた。
『ファイアフライからソードフィッシュ。高度を落とす。ついて来てくれ』
「了解」
ファイアフライはジョンソン中尉のコールサインだ。
私はジョンソン中尉とカーライル中尉を乗せたグロリアが高度を落とすのに合わせて、ワトソンとともに降下していく。
「それらしきものは見当たらないな……」
私たちはポイント・アルファ全域を高高度と低高度の両方から偵察したが、そこには偽装された陣地も、隠れ家もなく、空賊の飛行艇がかくしてあるような場所はひとつとして見当たらなかった。
『ファイアフライからウォースパイト。それらしき場所は見当たらず』
『こちらウォースパイト、了解。帰投せよ』
そして私たちは偵察を終えて帰投した。
「見つからなかったか……」
私たちの報告にイーデン大尉はいささかがっかりした様子だ。
「しかし、残り3か所、まだ候補はある! 油断するな!」
「はい!」
それから私たちはポイント・ブラボーである別の山岳地帯からポイント・チャーリーである海岸沿いの岩場、それからポイント・デルタである沖合の孤島までを確認した。
しかし、そのどこにも空賊の姿はなかった。
「ううむ。事前の情報に間違いがあったのか……」
イーデン大尉はそう考え込んでいる。
「どうしましょうか?」
「この結果を艦長に報告する。そこからは艦長がガリア国家憲兵隊と話し合うことになるだろう。それまでは待機だ」
「了解」
イーデン大尉はそう言って偵察結果を持って、タワーズ艦長に会いに行った。
「困りましたね。どこにも空賊のアジトがないのでは……」
「ああ。どうしたらいいのだろうか……」
私たちはどうしようもない閉塞感と行き詰まりを感じながら、ため息を吐く。
「紳士諸君。ため息を吐いている暇があるなら、私の仕事を手伝ってくれ」
そこで声をかけてきたのは、竜医であるホーキンス先生だ。
「仕事の手伝いというと何でしょうか?」
「長らく艦にドラゴンを閉じ込めておくのは健康に悪い。暫く外で待機しておいてもらおう。艦長と基地司令の許可はとってあるので、ワトソンとグロリアを地上に下ろしなさい。そして、暫くは地上と空を楽しませるといい」
「そうですね。了解です!」
やはりドラゴンだって広々とした地上や空が好きだ。人間がそうであるように。
「ワトソン、地上に降りていいって許可が出たよ」
「それは嬉しいね。すぐに行こう」
「待って、待って。私が準備するまで待ってね」
私はワトソンを外に下ろすために飛行甲板に出ると、そこからピエール・クロステルマン空軍基地のドラゴン宿舎に向かった。
「久しぶりの地上だね。けど、これからどうするんだい?」
「うーん。何としても空賊を見つけなくちゃいけないけど、そのためにはどうしたらいいのか分からなくなってきたよ」
「地道にやるしかなさそうだね。僕はまずはお腹を満たしたいな」
「分かった。食事する場所に行こう」
私とワトソンはドラゴン宿舎を出て家畜が飼育されている場所を目指す。
「あれは……!?」
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本日の更新はこれで終了です。明日の更新で恐らく完結です。
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