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速力低下

……………………


 ──速力低下



 私たちは展示飛行を終えてウォースパイトに帰投。


「見事だったぞ、ジョンソン中尉、ストーナー伍長!」


 イーデン大尉は私が途中で風船を届けに向かったことを咎めなかった。


「続いてはウォースパイトが勇姿を見せる番ですね」


「ああ。きっと上手くいくだろう」


 航空ショーの目玉はウォースパイト──そして、フリードリヒ・デア・グロッセの飛行だ。私が知る限り、ガリア空軍には私たちのそれに匹敵するほどの飛行艇は存在しないので、盛り上がることだろう!


 ウォースパイトはピエール・クロステルマン空軍基地を離陸し、ルーテティア市街地上空を目指す。フリードリヒ・デア・グロッセは左舷後方からウォースパイトに続いて飛行することとなる。


「ガリアの人間はウォースパイトみたいな大型艦を見たことがないらしい」


「それなら驚くだろうな」


 みんなリアクションにわくわくしながら、ハンガーから地上の様子を見る。


 ウォースパイトはゆっくりとした速度でルーテティア郊外から中心部に向けて進み、フリードリヒ・デア・グロッセがその後に続く。


 2隻の飛行艇は地上から歓声を浴びた。


 ウォースパイトが堂々と空軍旗を掲げて航行するのにルーテティア市民の歓声が地上からも聞こえてくる。これは航空ショー、大成功だね!


 と、思ったときだ。


 前方を進んでいたウォースパイトの速力が急に落ち、後方のフリードリヒ・デア・グロッセが加速したかのように前に出た。


「どうしたんだ?」


「こういうパフォーマンスだったのか?」


 何が起きたのかとハンガーの中が騒がしくなる。


「落ち着け! 現在状況を確認している!」


 イーデン大尉が一喝し、ハンガー内に秩序が戻った。


 しかし、ウォースパイトの速力は元に戻らず、フリードリヒ・デア・グロッセにずっと差を付けられてしまい、あまりにもゆっくりとした速度でピエール・クロステルマン空軍基地へと戻ったのだった。


「何が起きたんだろうか?」


「さっぱり分かりません。ゆっくり飛行してみんなにウォースパイトを見せるつもりだったのでしょうか?」


 私たちが困惑する中、イーデン大尉が戻ってきた。


「諸君。由々しきことだが、機関に不調が起きたようだ。現在不調の原因を究明中であり、噂話は慎むこと。以上だ」


 イーデン大尉はいつもの元気もなくそういってハンガーを出た。


「機関に不調? ありえるのか?」


「きっとエステライヒの連中が嫌がらせをしたんですよ」


 噂話をするなと言われた先からこれなのだ。本当に空軍はお喋りが好きだ。


「ストーナー伍長はどう思います? 例の連絡将校が破壊工作をやったと思います?」


 と、ここでお喋り好きなオライリー伍長が尋ねてきた。


「連絡将校にそんな暇はないと思いますよ。むしろ、夜中に侵入されたとか」


「なるほど。そういうこともありえますよね」


 噂話は盛り上がったか、結局のところ機関不調の原因が私たちに通知されることはなく、噂話は根拠のない噂のまま、収束していった。


 そしてヴァイクス少佐もフリードリヒ・デア・グロッセに戻り、私たちはいまいちガリアとの同盟締結の役に立てた気のしないまま、待機を命じられている。


 それからやってきたのはラムリー中佐だった。


「ジョンソン中尉、ストーナー伍長。少しばかり付き合ってもらいます」


 ラムリー中佐はそういってウォースパイトを艦長室に向かう。


 艦長室にはやや意気消沈したタワーズ艦長とエイコート卿が待っていた。


「艦長。機関不調の原因は分かりましたか?」


「ええ。燃料に不純物が混じっていたようだ。既に対処してあるが……」


「燃料を補給したのはこのガリアに到着してからですね?」


「そうなる」


 なんてことだ。燃料が原因だったなんて! まさか、ガリアがサボタージュをやったのだろうか?


「犯人は分かりません。この空軍基地は我々アルビオンの管轄ではないので、警備に問題があったかを調べることすらもできませんから。ただ、フリードリヒ・デア・グロッセには破壊工作は行われていない」


「恥知らずのエステライヒの連中め。やつらの仕業に違いない」


 ラムリー中佐が告げるのにエイコート卿がそう腹を立てた。


「それを主張するには証拠がないのです。彼らは我々が整備を怠ったからだと主張することでしょう」


「何もうできることはないのか?」


 ラムリー中佐が言い、アーサーがそう尋ねるが答えはない。


「ガリアはますます中立を維持しようとするでしょう。同盟を結ぶには政治家はもちろんとして市民も味方に付けなければいけません」


「ウォースパイトを公開して見せては?」


「この破壊工作の後にですか? タワーズ大佐もあまり気乗りはしないでしょう」


 エイコート卿の提案にラムリー中佐が首を横に振る。


 そこで私の視線が艦長室のテーブルに置いてあった新聞に向けられた。


「あ」


 そこに記されてあったことと、今私たちの置かれている状況が、私の頭の中で結び付けられ、ひとつのアイディアを生み出した。



「あの! 私にちょっとしたアイディアがあるのですが……」



……………………

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